この魔法を組んだ人間は心を病んでいる。 色とりどりのカビが珊瑚のように生えている床を僕は一歩一歩進んだ。天井には幾体もの死体が吊られている。埃や、灰や、湧き出る虫が絶えず降ってくる。 しかしおかしな話だが、それらは妙に美しいのだった。吊られている死体も、腐った死体も、すれ違う幽霊たちも、皆一様に整った顔立ちをしている。衣装も一目で分かる高級なものだった。ぶちまけられた内臓も、血も骨も、妙に色彩豊かで、かつ統一感がある。部屋の一切はまるでステンドグラスのように荘厳だった。ノイズの入ったオペラの声、遠くで聞こえる重々しい鐘の音。魔法の主の美意識の高さは認めなければならないだろう。おそらくヴォルデモートの死亡で没落する前はさぞや豊かな暮らしをしていた者に違いない。 しかしこんな忌々しい呪いを、美しく仕上げる必要がどこにあるというのだろう。その人物は正気ではない。 僕達は闇の中でいつしか離れ離れになっていた。僕はハーマイオニーを探している。心も体も蝕まれるような湿度ある冷気に、白くなる吐息。 「やめて!」 ハーマイオニーの悲痛な声が階段のほうから響いた。仮に僕が脱落したとしても彼女だけは必ずこの家から脱出するだろうと確信していた。彼女ほどの魔女にあんな声をあげさせるなんて、一体何があったんだろう。そしてシリウスは、先生は無事なんだろうか。 今から彼女の所へ向かっても間に合わない。一刻も早く僕は戸外に出て、そして家の外から魔法を解除できないかを試すべきだ。そして沢山の応援を呼んで彼等を救助する。 僕は食堂のドアを開けた。 次へ |