誕生日とプレゼント













「なあスティーヴ、誕生日のプレゼントにさ……」
「うん?」
「俺とフ……ファ……『Fantastic Beasts The Secrets of Dumbledore』を見ないか?」
「ああ、もちろん。バッキーはあのシリーズが気に入ったんだな」


 もうFの付く映画が尽きてしまいそうだった。
 The Fast & Furiousシリーズは全作網羅したし、Fantastic Beastsシリーズは3まできてしまった。
 俺が本当に欲しい誕生日プレゼントは、スティーヴと一緒に映画を見ることじゃない。
 もちろんスティーヴは趣味のいい誕生日プレゼントを俺にくれた。揃いの革表紙の手帳。大切にする。でもそうじゃなくて、俺はスティーヴとファックしたい。
 しかし何しろ今のスティーヴは世界人口の半分の命を救った救世主で、以前の100倍威厳があって、いくら恋人とはいえ気軽にセックスしようと言い出せない雰囲気なのだ。
 ファンタスティックビーストの映画では、かつて恋人同士だったらしき男2人が思想の違いから憎み合っていた。今はこんなでも、かつては彼等にも愛欲の日々があったろう。いかにもそういう顔をしている。俺は登場人物の過去を捏造し羨む。俺とスティーヴの愛欲の日々は始まってすらいない。
「……そういえばネットフリックス&チルって現代語、知ってるか?」
「いや、知らない。僕たちが今やっているみたいにソファに並んで座って、配信された映画を見ることか?」
「それがそうじゃなくて……」
 と言いかけて俺はスティーヴを見た。彼が完全に人をからかうときの目をしていたので、俺はやつのつま先を小さく蹴った。スティーヴは二次大戦後から今までの時間を生きてきたのだ。知っていて当然だった。
「邪悪なもやし野郎め!意地が悪いぞ!」
「ごめんごめん。お前が説明するところを見たかったんだ」
「まったく。俺の潔癖で真面目なスティーヴはどこへ行ったんだ!」
 スティーヴは俺をなだめるように手をつないで揺らした。
「さあ?あいつなら、強引なプレイボーイのお前と一緒にどこかへ行ったんじゃないかな」
 それは道中ものすごい大喧嘩になりそうだと俺は言い、スティーヴも笑って同意した。
 それで俺は勇気を振り絞って言った。
 誕生日のプレゼントに、例のあのスペシャルなマッサージを受けたいと。スティーヴは快諾してくれた。
 ファックの4文字はどうしても言えなかった。
 もやしとどこかに行ったという過去の強引なプレイボーイの俺に、今すぐ帰ってきてほしい。あの向こう見ずな勇気が今こそ必要だった。

 ちなみにその夜のスティーヴのスペシャルなマッサージは更にスペシャルなやつで、俺は涙と鼻水と涎を垂れ流しながら、「普通に俺の尻にペニスを入れればいいじゃないか!」と叫ぶ羽目になった。死ぬかと思った。
 スティーヴは優しく「慣れてない体にそんなことをしたらお前が怪我をしてしまう」と拒否して、俺はソファとスティーヴの服と床を汚しまくった。翌日は恥ずかしさでこの世から消えたくなり、部屋から出られなくなったが、それはまた別の話だ。











ちょっとバッキー虐待気味のシリーズ。
ほんの少しだけね。
サンダーボルツ*ではめちゃくちゃ格好いいので
ちょっとだけ可哀そ可愛く書いても許してね。
バッキー誕生日おめでとう。


2025.03.10