119 暑いので占いをしようとシリウス・ブラックが言い始めたのは零時を過ぎた頃だった。その日は夜になっても一向に気温が下がらず、2人は寝室へ上がる頃合いを計りかねていた。 「占いと名のつく授業は片っ端からさぼっていたくせに」 リーマスは学生時代の友人の学園生活に対してちょっとした皮肉を言ったが、シリウスは綺麗に無視をした。 この家に元々あるものなのか、ルーピンの物なのか、自分の所持品なのか定かではないが、と前置きをしてシリウスは1組のタロットカードを取り出して見せた。そのまま器用な手つきでシャッフルを始め、カードゲームをする時のようにバラバラと音をたてて組み替えたり、右から左へカードを宙に飛ばしたりした。 今にも逆の手から鳩が飛び出しそうな見事な指使いであるが、タロットではカードをそんな風に扱わないだろう、とルーピンは素直な感想を述べた。シリウスは快活な笑顔で、この方が見ていて面白いじゃないか?と答える。 右手で一度切って、それを山に戻してと言われるままにルーピンは従った。こういう時のシリウスに抗うと結局は膨大なエネルギーの無駄になるという事を彼は経験的に知っている。それに夜の熱気で幾分ぼんやりともしていた。 「お前の恋を占おう」 故に、シリウスがそう言った時も、ルーピンは力無く微笑んだだけだった。Vの時に配置される美しい意匠のカードを、彼はぼんやりと見ていた。 しかし中央のカードが出た時シリウスの指は止まり、ルーピンの意識ははっきりとした。 LOVERSのカードだった。もちろん正位置の。 2人は客観的に見て恋人同士であったし、当人達もそれを認めるのにやぶさかではなかったのだが、占いにおいてここまであからさまな暗示が出るとおののかずにはいられなかった。 なんとはなしにシリウスもルーピンもそのカードを正視できず、互いに左右を見る。 「とても純粋な愛だ。そしてプラトニックな期間が長く……」 ああそうだね、長かったね。と言いたいのを我慢してルーピンは友人の些かかすれた声を聞いていた。 「長く……そして、あー」 その後に続く相思相愛であるとか、結婚には最良の時期であるとかいう言葉をルーピンは覚悟していた。しかしシリウスは黙ってしまった。 「その、涼しくなったようだな」 全くそうは思えなかったが、これまでの人生で一番従順に、ルーピンは彼に「そうだね」と微笑んだ。「一体何がやりたいんだ君は」という揶揄もでなかった。 シリウスは卓上のカードを素早くとりまとめ、彼等は安堵しながらそれぞれの寝室へ向かった。 ある熱帯夜の話。 シリウスさんはその夜、寝返りをゴロゴロ打ったと思います。 先生は以降、会話全般に占いの話が出ると目が泳ぐ人に。 2004/08/21 配布 夏のイベントで出した 「豆だより1号」に載せた文章です。 この豆だより1号は酷暑で最高に狂っていて 表紙は女装したシリルだったよ……。 (いや、ネビルのばあちゃんのスーツ姿なんだけど) 冬に見ると目眩がする。 (あと、イギリスはこんな暑さにはならん) 2005/12/24 再録 |