117



「もちろんプレゼントは必要ないし、祝ってくれる気持ちだけで本当に嬉しいから、豪華な料理や音楽や奇怪な魔法はいらない。ましてや特別なお客さまを招待する行為などは丁重にお断りしたい。私がその手の事を苦手にしているのをよく知っている君だから、取り越し苦労だろうけれど。それから黒い犬と一日暮らすのはとても楽しいけど、君が不便な思いをするだろうからそれも遠慮するよ。いつもと同じ時間だけ変身して、一緒に散歩をしよう」
「……一気に言ったな」
「うん。肺の空気を使い切った」
「しかも久し振りに見る必殺の笑顔だ」
「笑顔なんか全部同じだと思うけど」
「お前の誕―――」
「あまり意識せず、普通の1日であることを私は望む」
「祝い―――」
「美辞麗句なども使用しない方針で。私はこの家で過ごす日常が一番好きだ」
「……そうまでして祝福されるのを回避する理由を聞いてもいいか?」
「……男性2人で同居していて、互いの誕生日を祝い合うというのは絶望的に逃げ場がないと言うか、マフィアの血の報復の連鎖のようじゃないか?」
「どうして恋人の誕生日を祝うという行為が『マフィアの血の報復』なんかに譬えられるのか分からないが、まあお前のジョークが分からないのは今に始まった事じゃないからな」
「いや、これはジョークでは……」
「昔のお前は素直だった」
「ええと」
「ドイツ製の蒸気機関車のセットを贈ったときなんか、目をきらきらさせてしばらく黙っていた。箱をこう、ぎゅっと抱いたまま、俺に何かを言おうとした。『あの』とか『でも』とかそういう。お前は昔から言葉が急には出てこない性質で、でも軽くパニックを起こしながらもすごく喜んでいるのが分かったから、プレゼントした俺も幸せになった。『包装を開けるのがもったいない』と言って、1週間は箱をそのままにして枕元に飾っていたなあ。昔のお前は祝うなとか何もするなとか、絶対言わなかった。可愛かった」
「君の記憶力が優れているのはよく分かったからどうかその辺で」
「よし、お前の誕生祝いはしない」
「シリウス、分かってくれたのか」
「その代わり、聖ニプル祭をする」
「聖ニプル?誰だそれは?」
「古の大魔法使いだ。彼は『安眠まくら』や『低血圧魔法使い用ココア』なんかの素晴らしいマジックアイテムを発明して、いまも偉人として魔法史に名を残している」
「……私は聞いたことが……」
「病弱だったそうだが、ものすごく長生きしたらしい。終生ハンサムな恋人と田舎の家で仲睦まじく暮らしたとか」
「・・・・・・」
「恋人と一緒に眠ったり、恋人と一緒に入浴したりするのが何よりの楽しみだったと伝記で読んだ」
「シリウス……」
「聖ニプル祭ではみんなが聖ニプル仮面をかぶって聖ニプル歌を歌いながら、ニプル酒を飲む。ちなみにチョコレートベースのリキュールだ」
「・・・・・・」
「鳥のニプル焼きとニプルケーキは欠かせないな。そしてハリー、いや子供達がニプル誕生の寸劇をするのが習わしだ」
「シリウス」
「何か?ルーピン教授。そうと決まれば準備で俺は忙しい」
「……私の誕生日を祝ってくれないか?」
「お前の誕生日を?」
「うん。君の気の済むように」
「花を飾っても?」
「飾ってくれ」
「抱擁しても構わないと?」
「是非とも」
「それは聖ニプル祭より面白いかもしれないな」
「おそらくね」
「プレゼントも受け取って頂けるのかな?」
「望むところだ」
「それは嬉しいな」
「必殺の笑顔だね」
「笑顔なんか全部同じなのでは?」
「前言撤回だ」
「贈り物は機関車を御所望ですか?教授」
「いや、できれば何か他のものを」
「何故?もう機関車に興味はおありでない?」

「あれは今も動くからね。ほかの機関車は必要ないんだよ」








来年の2月の末頃になったら、先生は旅に出ると思うよシリウス。
&せんせい、誕生日おめでとうございます。
2005/3/10 アップ

今年の3月10日の日中に連絡を頂いて、
ともかく絶対絶対絶対何か書く!!
と決意して何もかもすっ飛ばして書き上げました。
なんかこう間違いもありましたが非常に満足しました。
お知らせ下さったちょう親切な人に感謝を!!
誤字脱字を指摘くださった方もありがとう。
2005/12/24 ボエム収録