The morning of one day


 リーマスはぼんやりと目を開いた。
 朝だ
 立って動かなければならない。
 彼はいつも朝に目が覚めると自分がどこの誰で今までどんな事をしてきた人間だったかを必死で思い出さなければならない類の人だった。つまりは寝起きが悪い。この作業が面倒で、彼は出来れば2度と目覚めないで済むか2度と眠らないで済めばいいのに、と毎回思う。
 自分がリーマス・J・ルーピンという魔法使いで、伝染病患者で、近年友人を全員失ったばかりだという辺りまで復習が済んで休憩を入れたが、ふと右肩の皮膚が妙に引きつれる事に気付いた。 無意識に動かすとくっついていた物が離れ、その箇所へ血が巡り出す感触がしたので、さて寝床へ本でも引き入れてしまったかと手を伸ばしたら妙に湿度と温度のある物に触れた。
 それは弾力があって滑らかだった。
 変な姿勢で眠っていた自分の足かとも思うがそれにしては足に触感がない。リーマスは仕方なしに渾身の力で首を3インチほど持ち上げた。
 黒い髪の男が眠っていた。
 ぱさりと音がしてリーマスの頭がもう一度枕に戻る。
 彼は必死で記憶のビデオを巻き戻した。この痩せた男が懐かしい友人だという事が分かった。そして昨日の夜までテープが戻って。
 そこでリーマスは溜息をついた。
 確かめる元気もないが、おそらく自分は裸で、シリウスもきっと裸だ。記憶が正しければ。と冷静に彼は考えた。
 その瞬間も特に驚きはしなかったのだ。こんな事になるのではないかという気がしていたので。
 昔のように他愛ない無邪気な友人でいるには2人はあまりにも精神のバランスを欠いていた。
 昨日の記憶の細部や様々な感慨を心のゴミ箱に叩き込んで、リーマスは今日の基本方針を考える。彼としては何事もなかった事にしてそ知らぬ顔で生活を続けるのが一番望ましかったのだが、それをシリウスに強要するのは酷だという気がした。そして特別素敵なコースで、これからすぐに旅支度をして1人でここを出るというアイディアがあったのだが、実行した場合シリウスが起こすであろう行動と騒動をシミュレートしただけでも頭が重くなったので、リーマスはその想像も丸めてゴミ箱に叩き込んだ。
 後ろ向きな姿勢を捨てて真正面から取り組まなければならない。まずは簡単な問題から始めようとリーマスは考えた。目覚めたシリウスに何と声を掛けるかだ。
 「おはよう」では胡散臭いし「昨日はどうも」ではあんまりだ。
 「一種の転換期だと解釈して、この関係を前向きに捉えないか?」目覚めにこの一声では気が遠くなってしまうだろう。
 「素敵だった」……言うくらいなら死んだ方がマシだとリーマスは思った。
 そこまで考えてもう根性の挫けてしまった彼は取りあえず何かを着ようと自分の衣服を探す。昨日の夜着はシリウスの下敷きになっていた。
 これを一流ウェイターがテーブルの食器を揺らさずクロスを抜き取るように引っ張り出す事は可能だろうかとリーマスが思案していると、シリウスの呼吸の調子が変わった。
 まずい、とリーマスが思う間もなく彼は瞳を開く。
 美しい顔立ちをした彼は寝起きの顔ですら美しかった。
 方針が定まっていない以上もはや自分は一切のアクションを起こさず、相手の出方を見ようとリーマスは決めた。少々卑怯だが仕方がない。
 果たしてシリウスがどういう思考経路でどんな行動に出るだろうとかと、却って楽しみな気持ちでリーマスは彼の表情に見入った。
 シリウスは危なっかしく頭を揺らしながら上体を起こした。そして乱暴に頭を掻き、顔をこすり、大きく息を吐き出しながら立ち上がると――――――――
 部屋から出ていってしまった。
 全裸で。
 全裸で歯を磨きに行ってしまった。
 そういえばシリウスはリーマスの更に上を行くほど寝起きの悪い男だった。
 トイレに行けばさすがに気付くだろうと、面倒になったリーマスは膝を抱えて俯く。寝起きに頭を使った所為で目眩がした。
 すると洗面所の方からガタンと大きな音がする。
 まさか貧血で倒れたんじゃないだろうなとそちらの様子を窺っていると、ドアが大きく開いてシリウスが戻ってきた。
 酷く驚いた顔でドアの横に立つ彼と、ベットの中で目を丸くしているリーマス、2人は馬鹿のように裸だった。
 しかし顔の美しい人間というのは得なもので、全裸で立っていてもさほど間抜けには見えない。
 びっくりした顔のままシリウスは大股で歩み寄ると、友人の前で首を傾げた。そして彼の行動が読めずに矢張りびっくりした顔のままのリーマスの両肩を掴むと深く口づける。
 朝に裸で抱き合っている自分達を絶望的に本物っぽいと思いながら、リーマスも顔を傾けてキスを受けた。当然ハミガキ粉の味がした。
 リーマスは忘れていた。シリウスは考えたりしないのだ。そして考えのない割には行動は冴えていた。この場合、冴えているかはともかく判りやすい事は確かだ。
 始まった勢いのまま唇が離れて音をたてた。シリウスはまだ驚いた顔をしている。全裸で。泣くか笑うかがしたかったのだが、シリウスを驚かさないようにそれを我慢しリーマスは出来るだけ穏やかに彼に話しかけた。
「……シリウス泡が付いている」
「うん」
「蟹みたいだよ」
「うん」
「取りあえず、ゆすいできたら?」
「……うん……その、ええと」
「蟹」
 リーマスが背中を押すと、シリウスは2、3度口を開閉させたのだが諦めたように立ち上がった。段々に見慣れて、異常なものという感覚が麻痺してきたその全裸の後ろ姿を見送ると、リーマスは朝から考えた一切合切を心のゴミ箱に叩き込んだ。
 自分だけあれやこれやと考えを巡らして疲弊するのは不公平というものだ。そしてぼんやりと歯を磨いているであろう全裸の友人の姿を盗み見たくなったので、リーマスはその欲求に素直に従って立ち上がった。
 勿論、服を着て。



リーマス・J・ルーピン。心に巨大なゴミ箱を持つ男。

力押しで1本書いてしまうのは非常に良くないですね。
もっと頭を使わなければ……。 つーか毎日毎日
イチャイチャしているだけの人をどうして毎日働いている私が
書かないといかんのだ。あんたらもちょっとは働くとかしろ!

しかし物凄くアホみたいな、いやアホそのものの話ですが、
実はこの時期 2人的にはすげぇ最悪の修羅場まっただ中です。
『再会』のすぐあとくらい。 しばらくマグルの安宿を転々と
していた犬狼ですが、シリウスが1日に何度も パニックの発作を
起こして叫んで暴れて、看護している先生の方も 精神的に
段々おかしくなってきて、怒鳴り合ったり抱き合ったりしているうちに
とうとう……という次の日の朝です。 出来ちゃったあとのシリウスは
徐々に回復に向かいます。 タッチセラピーの強烈なやつ?(違う)
結果的に出来ちゃって正解だよ君ら。と私は思います。

しかしシリウスもう一度戻ってきて「リーマス、済まなかった」とか言って
先生を脱力させそう。君はモノ考えない方が良いよシリウス。
アズカバンで半分腐ってるから君の脳。 「こいつ今ここで昨日と逆のことを
嫌というほどやって、済まなかったと言い返してやろうか」とまで
先生は思いますが、面倒なのでやめたようです。
てゆうかあとがきで続きを書くのやめようよ。しかもリバ。
リバヘイトの方ご勘弁!


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