男性と犬2(おまけ)


「本当に分からないのか?!ここまで言っても?!」
 シリウスが大声で怒鳴る。そんなに大きな口を開けて、ハンサムが台無しだよ君。「マジかよ」なんて随分懐かしい言葉遣いだね。私はゆっくりと効果的な間をとって首をかしげる。
「分からない。さっぱりだ」
「お前は……もしかすると世界で一番鈍感なんじゃないか……?」
 心底呆れ顔のシリウス。しかし私は内心で彼の5倍も呆れている。
 ああ、本当に……君は馬鹿だなあ。
 いくらなんだって、そこまで鈍感な人間がいる訳ないじゃないか。私は、演技ではない、困った顔をシリウスに見せる。
 30過ぎた男がそんなに他愛なくて隙だらけなのもどうかと思うよ。
 ああ、違う違う。今は彼を懲らしめているんだった。私は少し悩んでみせて、彼にとどめを刺す。
「もう少し分かり易く説明してくれると嬉しいんだけれど……」
 シリウスは小さく息を詰まらせた。そして、私に腹を立てて睨んでいる。気の毒だが全く怖くない。可愛いらしいばかりだ。瞳は左に右に動いて、激しく逡巡しているのが手に取るように分かる。なんだか私の生徒を見守っている気分がするよ。私は気持ちの全てがこもらないように注意して、呼び慣れた彼の名前を呼んだ。
「シリウス?」
「……嫉妬だ」
 うん。
 仕向けておいて こう言うのも何だが、本当に口にするとは思わなかったよシリウス。すごい。よくそんな恥ずかしいことを言えるね君は。いや、決して貶めるつもりではなくて、ある意味尊敬に値するというか。
 ……済まない。
 とても済まないと思うけれど、もう一度だけ今の顔を見たい。私は心の中でこっそり謝って、無慈悲な台詞を口にした。
「ええ?」
 彼は妻子の死の知らせを聞いた時の男性のような絶望的な表情を浮かべ、次に私の望んだ顔を見せてくれた。自尊心と怒りと好意が激しくせめぎ合う顔。
「嫉妬だ!」
 こうやって、いつまでもピントのずれた会話を続けて君をからかうのは、いけない事だろうか。困ったな。あまりに楽しすぎて終わるタイミングが難しい。勿論ひとを噛むのはいけない事だ。彼にそれを理解させるのが一番大切なのだけれど。
 けれどこうやって青くなったり赤くなったりクリスマスの飾りみたいに忙しい君を、一日中見ていたいという気持ちも本当で。なんだか私はどんどん性質が悪い人間になってきているようだ。
「嫉妬したんだ。これで通じなければお手上げだ」
 危なかった。もう少しで吹き出してしまうところだった。忘れていたが、私はひどく笑い上戸なのだ。今も頬が不自然に強張っている。そろそろ猛烈に怒る振りでもしなければ、大声で笑うのを止められなくなるだろう。
 残念だけど、今回の懲罰は終わりにしようかブラック君。
 本当に残念なのだけれど。







私がシリウスで、もし真相を知ったとしたら
まずは先生の首を刈るね。全ては刈ったあとで考える。

という訳で、先生の羞恥プレイ特別コースでした。

先生の鈍感度合いというのは、コンディションにより
かなりバラつきがある気がするというか。(ある程度自在)
それを演技でカバーして統一感を出しているというか。
マジ鈍感な時もあるから、きっとシリウスは他愛なく
騙されちゃったんだよ。と、彼の弁護などしてみたり。


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