ある夜


 壁に頭を打ち付け、ありとあらゆるものに呪詛を吐くシリウスをリーマスは羽交い絞めにしてとめる。
 お互いの出す大声が部屋の中に充満する。壁が破裂しそうに感じられる。彼はピーターとシリウス・ブラックつまりは自分自身を殺してやると何度も絶叫し、リーマスは同じ数だけそれを否定する。何かが倒れて砕け、隣の部屋に宿泊している客が壁を蹴った音がした。
 しかしリーマスの心の内は静かだった。オレンジ色の明かりに映される灰色をした2人分の大きな影が部屋の隅で動く様子や、せいせいと鳴る弱弱しいシリウスの呼吸、湿気を含んだモルタルの匂い、五感はすべてを正確にとらえていた。どこかのラジオからだろうか、スローテンポなピアノの曲が聞こえる。
 切れた唇の端から血が垂れてきた。ひどい痣にならなければいいのだけれどとリーマスは嘆息する。あとで我に返ったシリウスが心を痛めるだろうから。
 満月の日は人間ではなくなるリーマスと、夜になると正気を失うシリウス。それでも2人ともこうやって生きている。
 自らの頬を掻き毟り、リーマスの髪を引きちぎる彼の腕を押さえ、何度も「帰ってきてくれて嬉しい」と告げる。彼が涙を流し動かなくなるまで。
 もしかするとシリウスは永久にこのままで。町の片隅でこんな風に2人でずっと夜の中を暮らしていくのかもしれないとリーマスは思った。
 力の緩んだその戒めの腕をシリウスは振りほどき、リーマスの首を掴んで力を込める。
 彼が顔を歪めて罵り憎んでいるのは自分ではないとリーマスは知っていた。なので抗わなかった。うっすらと微笑みすらした。どこからか聞こえてくるピアノの曲は主題の部分になった。
 シリウスの指の力は徐々に弱くなり、やがては完全に離れると彼は震えて涙をこぼしながらリーマスに口付けた。何度も何度も。数がわからなくなるまで。時間のわからなくなるほど。リーマスは黙ってそれを受け入れた。
 そしてシリウスの手がゆっくりと衣服のひとつめのボタンをはずした。リーマスは眼を閉じた。
 ピアノの曲はまだ続いていた。





「再会」のすぐ後。最悪の時。
もちろん「The morning of one day」に続きます。
(ところでどうしてこれウラに置いたのだろう私は。
全然何もしてないのに。全裸マンが出てくるからかしら)

先生は自分の事を平静な状態であると思っていますが、
客観的に見てかなり精神的にやられているので
ピアノの音はおそらく幻聴でしょう。(3人称・地の文で
幻聴の記述をするとはアンフェアな/笑)
ここで拒まなければ、あとに何が起こるか
分からなかった訳はないので、正常であったなら
先生は止めていたでしょうね。そしてうちのサイトにある
ほとんどすべての話はなかったことに。

絶叫と暴力を繰り返して、恐ろしい夜の中に2人っきりで
閉じ込められた気がしていたことでしょう。
出来上がらなかったら、もしかすると彼等はこのまま
死んでしまっていたかもしれないので、
うちの犬狼は出来ちゃうしかなかった。
そこらへんは胸を張って言えます。(私が)
そうそう、シリウスの両腕を押さえつけてしまう先生の癖は、この頃ついたものです。

加減とか前準備とか、一切なかったと思うので、
先生はそりゃあ大変だったはず。ええと色々(泣)。

2003/03/25
短いのでおまけ。



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