ルーピン先生のサイコロ確率論講義
あるいは冷静なギャンブラーの勧め


某年某月某日 ホグワーツ魔法魔術学校主催一般公開講座より抜粋
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「3個のサイコロを投げたとき、目の数の和が9になる場合と10になる場合の数は同じなのに、
実際にやってみると10になる確率の方が大きいようだが何故だろう」
これを賭博師の友人から問われたのはガリレオです。
目の数の和が9になる場合と10になる場合というのは
 和が9になる場合: (1,2,6) (1,3,5) (1,4,4) (2,2,5) (2,3,4) (3,3,3)
 和が10になる場合:(1,3,6) (1,4,5) (2,2,6) (2,3,5) (2,4,4) (3,3,4)
で、一見6通りずつですがどこか変なことに気が付きましたか?
ここで納得したら騙されますよ。
和が9になるたとえば(1,2,6)の目がでる場合をサイコロAサイコロBサイコロCと3個のさいころの目を区別してみると
) () () () () (
ほら、6通りあるでしょう。同じことが(1,3,5)と(2,3,4)の3つのさいころの目が違う場合に言えますね。
では(1,4,4)だったらどうでしょう。
) () (
これは3通りありますね。(2,2,5)も3通りあります。
さすがに(3,3,3)は一通りだけですから、前述した和が9になる場合は
6+6+3+3+6+1=25
と25通りあるわけです。
同じようにして和が10になる場合は
6+6+3+6+3+3=27
と27通りになりますから、和が10になる確率の方が高くなります。計算してみましょうか?
分数とべき乗の混ざった式を見ると意識を失う人がいそうですから、結果だけね。
0.00926 およそ1%だけ和が10になる確率は大きいんです。
結局ここで言いたいのは、こういうことを説明してくれる友達がいると自分の商売もうまいことやっていけるってことですね。

ここで、期待値と言う言葉をちょっと説明します。
サイコロを1回4シックル(s)で振ることができて、でた目によって次の表のように払い戻しを受けられるとします。
さいころの目 戻ってくる金額 (+・−)

1

0s

-4s

2

0s

-4s

3

2s

-2s

4

2s

-2s

5

4s

0

6

14s

+10s

サイコロにはイカサマができないようにに呪文をかけておくから、どの目も6分の1で出ます。
6回さいころを振って1から6までが1回ずつ出たとすると
賭けた金額は4x6=24(s)
戻ってくる金額は2+2+4+14=22(s)
だから2s損をするんだけれど、賭けた金額と戻ってくる金額をつかってこの賭の期待値が計算出来るので
今度は簡単だから式も書きますね。
(22/24)x100=91.666…(%)
実際に賭をしたら、1と2ばかりでて24s丸々損をするかもしれないし、6が続けて出て大もうけ出来るかもしれません。
けれど、期待値は理論上の数字だから、賭が1回でも理論上は4x0.91667=3.667sほど戻ってくるっていうことになります。
4sずつ6回でも、24sを1回に賭けても理論上の期待値は同じです。
つまり同じ賭で期待値が同じなら、トータルでいくら賭けたかが重要だってことを言いたかったんだけど…。
何だか騙されているみたい?まだ、騙してないんだけどな。

それじゃあね、ここに箱が2つある、形は同じ、中は見えません。
一方には他方の2倍の金額が入っている、ということだけがわかっています。
そこで、一つを選んで中に100ガリオン入っていることがわかったとします。
ここに「もしも望むならあなたが選んだその箱を、他方と取り替えてもよい」というオプションが付いた場合
箱を取り替えるべきか否か。
さっきの期待値を考えてみようとすると、妙なことが起きるんですよ、いいですか?
2つの箱のうち高額の入った箱を選んだ可能性と低額の可能性は50%ずつで同じはず。
それならば、箱を取り替えると50%の確率で200ガリオンになるか50ガリオンになる。
ということは、+100ガリオンと−50ガリオンはどちらも50%の確率で、取り替える方が期待値が大きい。
((200+50)/200)x100=125%
・・・変でしょう?(え、何が変だかわからない?じゃ、あとで聞いてください 個別に。)
これはそう簡単に説明出来ないパラドックスなので、
「期待値」というものがそう単純なものではない印象を持ってもらえればそれでいいと思います。
私だったら、もちろん100ガリオンでストップですね。横でいくら取り替えろと主張されても…。

さて、ルーレットというギャンブル、
赤か黒かに賭けたり、一つの数字に賭けたり賭けるパターンは色々あるんですが、
このルーレットの期待値を計算するとどんな賭け方をしても期待値は同じになります。
期待値は同じでも結果の出現する頻度は違いますから実際の賭け方の意味はまるで違ってきます。
ところで、たとえば赤と黒に賭ける場合。
赤が5回続いたら、次は黒に賭けますか?
やっぱり赤と黒は同じ確率だからどちらでも同じと思いますか?
それとも、これだけ赤が続くのは変だと思ってツラ目を追いますか?
そのどれかを選ぶかもギャンブルではありますが、
サイコロやルーレットのようなゲームはその直前の結果が次の結果を左右することはありません。
これを独立事象のゲームと言います。だから、次も赤と黒は同じ確率。
独立事象なのでそこにはいわゆる流れというものも存在しません。
が、実はこれと一緒にしていいのかどうかは微妙なところですが「ツキ」という
一見負け惜しみ的に使われがちなものが、確率論で証明されていたりします。
ついているときには大胆に賭に出るのも…止めはしませんけれど
勧めませんよ。やめられる理性に自信のない方には特に。
ではね。
Good Luck!



すいません、なんで「ツキ」の話で終わるのかよくわかりません。(語呂が…)
そもそも確率とは…みたいに話し出すととてもじゃないけど終わらないのでこんなところでお茶を濁しました。
おかげさまで、色気もへったくれもありません。パンダが笹の食べ過ぎで胸焼け起こしそう。
結局なんだわ、重箱の隅をつつくような話ですね、こういうのは。
おまけに、書いているうちにすっかり楽しくなって、
わかりやすく書くなんてことは見事に忘れてしまいました。
お題を強奪した上に散々待たせてこの有様です。
少しはこれに懲りなさいという感じで、はい、反省しています。もうしません。
ほとんど遊びですから、きちんと知りたい方はそれなりの講座を受講しましょう。
個別に質問ですか?ふくろう便で出してみてはいかがでしょうか。

02.10.15 







  参考文献(ってか、ほとんど引用)
  統計学再入門(中公新書)
  確率・統計であばくギャンブルのからくり(講談社ブルーバックス)
  数学セミナーリーディングス確率・統計+近似・誤差(日本評論社)