「TAR ター」










女性指揮者リディア・ターはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者で、
その繊細な解釈は他を圧倒し、世間からも注目される芸術家だった。
しかし一方で彼女は若い女性音楽家に手を出し、
不要になれば切り捨てるというような非情な振る舞いをしており、
ある日それが明るみになるというあらすじ。破滅する天才系の話です。
珍しいのは主人公が女性で、同性愛者だというところ。

ケイト・ブランシェットの演技が凄くて、
感性の鋭さを示す神経質な仕草と、
美しい肉食獣のようなパワー、威厳を矛盾なく表現なさっていた。
指揮をするときの指先や表情は一見の価値ありと思いました。
(ファッションも素敵でした)
全体的には音の扱いが特に巧みだった。
遠く鈍く微かな音や、近く鋭く怖いような音や。

最初にスタッフロールがあります。
嘔吐があるのと、ほんの少しホラーっぽい表現があるので苦手な人ちゅうい。

ラストまでばれ

誰かモデルになった指揮者さんがいて、その自叙伝の映画化で
冒頭とか、流出したメッセージをそのまま使っているのかと思った。
(同性愛者の有名な女性指揮者さんはおられるようだけど)
セクハラパワハラで欧州を追われて東南アジアに逃れ、仕事をしているパート、
冗長に感じられたけど事実なら仕方ないと思ってたよ…。
マッサージに行ってげろ吐いているところとか、実家に一瞬帰るシーンとか、
あれ普通だったら編集で切るよな?
プロフィール詐称も原点回帰もほかの演出で代替え可能だし。
ラストのコンサート、あとで調べたらモンハンだと分かった。だから権利者が大阪!
みじめな場末の仕事なのか、新しい音楽への挑戦と描いてるのか判断しかねる。
(監督的に「都落ちです」とは口が裂けても言えないだろうから発言は真に受けない)

セクハラパワハラに関しては、ロシアのチェリストへのアプローチを見るに
ターは芸術家の美女を創作の刺激としたい漁色家という自認なのかも。
ただ不要になった人間への処遇が容赦ないので到底擁護できませんけど。
これターが男性だったら全世界で無数に起こっていることで
ありふれ過ぎていてここまでは劇的にはならなかった気がします。
(カラヤンも熱をあげている若い演奏家を抜擢し物議を醸した事件がある)
そして男性だったら権力者の友人が何人も出てきて鎮火にあたってくれそうなものだけど
転落があそこまで急激なのはターが女性だからという…?
映画から逸れますが、音楽、美術や学術、スポーツ、あらゆるジャンルで、
セクハラが不可能になるシステムを作るべき。
(ベルリンフィルにはコンプライアンス研修がない?いやあるよね絶対)

キャンセル・カルチャーについても書こうかと思ったけど長いのでやめます。
関係ないけど最近ピカソの絵画の価値が下落していて、
その理由は彼がセクシストである故ではと推測されている記事を見かけましたが
まあその現象が恒久的に続くかどうかは不明ながら、
倫理がダイレクトに金額を上下させるのは面白いなと思った。

不自然なヅラのマーク・ストロング氏が
ターアタックを受けて吹っ飛ぶシーンでキャッキャしてしまった…。









2023.05.14 サイトに掲載

2024.05.07 再掲載





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