「 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス 」 ランドリーを経営する主人公は中国から夫と共に移住した主婦。 認知症を患った口やかましい父、反抗的な娘、優しいがあまり頼りにならない夫、 と問題が山積みだが、内国歳入庁から納税申告を差し戻される。 春節の祝いと父の誕生パーティーでオーバーワーク気味だった彼女に、 突然意外な人物から、すべてのマルチバースを救ってほしいという依頼がきて…というあらすじ。 「スイス・アーミー・マン」以来の推し監督だったダニエル・クワン&ダニエル・シャイナートと 推し俳優のミシェール・ヨーの仕事、しかも推し監督のルッソ兄弟も制作でかかわっていて、 ずっと楽しみにしていました。 何年も前に「次は税申告の映画になる」ってインタビューを読んで、 絶対普通の申告じゃないだろうと思ってたけど、やっぱり全然普通じゃなかった。 でもダニエルズの芸風は少数の分かる人にだけ愛される…って感じなので、 アカデミー賞最多10部門!とかいう評価は正直戸惑います。 いや、私はアーティストが売れたら離れるタイプではないので やったー!売れたー!とは思ってますが、え?私はこの映画好きだけど、みんな大丈夫? この内容が受ける時代が来たん?本当に? 性的に下品な描写や、美しい愛情の話、頭のおかしな空想、 イチゼロでは割り切れないグレーな相互理解、色々含んだ混沌とした内容です。 アカデミー賞ノミネート作品に多い傾向の、 ある程度品の良い醜さ、みたいなものを期待していくと酷い目に遭うかも。 あと、主人公に感情移入して冒険して ヒロインといい感じになって映画を楽しむタイプの男性向きではない。 注意 嘔吐あり。 コメディっぽい動物虐待描写があります。 ラストまでばれ 「スイス・アーミー・マン」「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」(単独作品)そして今回、 一貫して出てくる要素、男性器…。 あとアナルファック要素、女性カップルは2作品共通。 ミシェール・ヨー様のアクション、たっぷり見せていただいたし、相変わらず頭がおかしい世界を楽しめたし、 めちゃくちゃな内容にもかかわらず、終盤に拡散せずにすっと収束したし、 男性監督が母娘のお話を撮ると「は?」って内容になってしまうことが多いけど この映画は目を逸らしてしまうほどリアルが煮詰められていたし、その全部がすごかった。 結局すべてエヴリンのストレスによる妄想って解釈も成り立つけど、 いけ好かない税務署の役人も、別のバースではあなたと愛し合っているかもしれないし、 現在のバースでも別に相手は鬼ではないし、事情を知れば申告の期日を延ばしたりもしてくれる。 だから戦わなくていいんだよ、愛だよ、という、話の奇抜さからは予想できない優しい結末だった。 母と娘の話であると同時に妻と夫の話でもあるけど、 「インディ・ジョーンズ」の少年ショーティ役で有名なキー・ホイ・クァン、 彼の演技もアクション含めよかった。娘さん役のステファニー・スーも。 父と息子の話は、父を乗り越える通過儀礼てき内容か、または父の遺志を継ぐパターンが多いけど 母と娘は、束縛しようとする母と個を確立しようとする娘の手探りの共存が多い気がします。 「私ときどきレッサーパンダ」「メリダとおそろしの森」「レディ・バード」「ミズ・マーベル」(ドラマ)みんなそう。 ジョイ・トゥパキも、別にエヴリンを殺そうとしていたのではなく、一緒に楽になりたかっただけだった。 一緒にいると傷つくが、好意も断ち切れない状態。苦しそうだった。 (しかしマルチバースへのジャンプ訓練で追い込みすぎてジョイ・トゥパキが発生した(?)と 理解しているのですが、魔女のいなかった世界でなんでそんなことをする必要があったのか…?) 生物が発生しなかった世界のエヴリンとジョイを見て、市川春子先生の漫画世界だ…すごい! と思ったんですが、あれが手抜き、尺かせぎに見える人もいるらしく、うーん、と思った。 あのシークエンス、石だったので適度にコミカルで湿度が低く、いい感じでしたが 人間体でやったらそれこそ東映の人情ものみたいになるんですよ。たぶんね。 エヴリンの見せる最大限の愛情シーン、あれは石がベスト。 柔と剛を併せ持ったエヴリンの、掌底で強く突いた後、 しなった指でさらに押す技が好きですが、 そういえばミシェール・ヨー様出演の「シャン・チー」も 主人公が父の剛拳と母の柔拳を使いこなす話だったと思い出したり。 この映画でミシェール・ヨー様に興味を持ったひとには「ガンパウダー・ミルクシェイク」を、 監督のダニエルズに興味を持ったひとには「スイス・アーミー・マン」をおすすめします。 この映画の同性愛要素は、数分カットすれば取り除けるようなものではなく話の根幹なので 中国での上映は難しいだろうな。 ザ・ポリティカルコレクトネス映画!という内容なのに、 ポリコレ配慮しない映画より下品で気が狂っていて最高でした。 日本だと「えっちや下品や残虐なのはダメざます!」という意味だと誤解されていますが そうではなくて、この映画のようにポリコレ配慮しながらブッ飛んだ内容にすることも可能なわけです。 (実力のあるクリエイターならね) 2023.03.05 サイトに掲載 2024.05.07 再掲載 戻る |