「 パワー・オブ・ザ・ドッグ 」










宿屋を営む未亡人ローズのところに、
牧場主の兄弟と牧童たち一団がやってくる。
ローズの一人息子ピーターは中性的な顔立ちと性格をしているが、
それが牧場主のフィルを苛つかせ、彼はピーターを侮辱する。
やがてフィルの弟ジョージとローズは結婚するが、
フィルとローズの確執は深刻になっていく…というあらすじ。

繊細な描写でじわじわ進みます。
音楽も不穏になってゆき、終盤に色々瓦解します。
アカデミー賞監督賞受賞。

ラストまでばれ

じっくり時間をかけて人の表情や動作を描写するので、
人間の心を追う映画かと誤認するが、実は違う。
ローズのアルコール中毒描写などはミスディレクションで、
話の骨格はサスペンスである。
終盤になって効果的に明らかになる。
それとほぼ同時に、圧倒的な強者と、
何の力も持たない弱者という関係に思えたフィルとピーターの立ち位置も逆転する、
というか最初から逆であった事が分かる。
説明はほぼないので、察するのが苦手な人向けではないのと、
サスペンスのスピードではないので、展開の遅い作品が嫌いな人は無理。
それと現実で解決していない人間の苦しみを
エンタテインメントの筋立てに利用されるのが苦手な人向きではない
(というひとがいらっしゃるのを「ラストナイト・イン・ソーホー」で知った)。

フィルを演じる主演のベネディクト・カンバーバッチ氏の演技は素晴らしく、
食堂に入ってすぐにゲイのゲイフォビアだな…って分かるかる演技だったし、
セリフ以外で全部表現する脚本だったので、
ちゃんと要求される仕事をなさっていた。
あとヌードシーン多かった。昔の女優さんなら体当たりの演技って言われたやつ。
監督のフェティズムなのか、私の勉強不足か、
意図のよく分からない腰のアップが幾度かあった。

例の菌、威力がすごい。
皮が引き渡されるかどうか等、偶然の要素が多いが
まあどちらにしろ理由を付けてあの結果にはなったのだろう。
ところで実父の自殺は本当にナチュラルな自殺?

犬の力、聖書では無知蒙昧の輩の、愚かな攻撃性、
というような意味に私は解釈するが、
この映画ではもっと複雑なのかも。
特別な人間にしか見えない丘の犬の影や、
特定の人間に対する差別心や。

あるベテラン俳優が、
「ニュージーランド出身の女性監督は
西部のことをまったく理解していない。
自分はテキサスのカウボーイたちと交流があるが、
牧場にもカウボーイにも同性愛など存在しない。
上半身裸のカウボーイが登場するあの映画は、ストリップだ」
とこの映画を酷評したが、のちに謝罪したそうです。










2022.04.15 サイトに掲載

2023.05.07 再掲載





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