「プロミシング・ヤング・ウーマン」 成績優秀な医学生だったカサンドラは、 しかし大学を中退し、今では夜ごとクラブで泥酔したふりをして 一夜の性行為を狙って近付いてくる男性を罵倒する毎日を繰り返していた。 彼女の行動は、幼馴染で親友の、同じく医大生のニーナが 泥酔状態で同級生の男子学生に性暴行を受け 周囲に訴えるも取り合ってもらえず自殺したという過去が影響していた。 というあらすじ。 親友を失って心と人生が壊れてしまったヒロインの苛烈な復讐話、 かつ女性の怒りの物語なので、男性の鑑賞は注意が必要。 少なくとも「若い女の子が無理やり乱暴されるエッチなシーンがあるかも…!」とか そういう目的では行かないほうが良い(性暴行シーンはありません)。 同様の体験をしているかたのフラッシュバックは注意が必要です。 アカデミー賞脚本賞受賞。 エメラルド・フェネル監督は35歳。すごい。 (アリ・アスター監督も35歳) タイトルは、性犯罪事件を起こしたエリート白人青年を庇うときの常套句 「前途ある青年の未来を、一時の過ちで潰すのは忍びない」 (プロミシング・ヤング・マン)の対称。 監督によれば特に意識した皮肉ではなかったそうですが。 意外に男性客が多く、半数近かったので大丈夫なのか心配になった。 ラストまでバレ お持ち帰り男を殺してるんだと思ってたので、 むしろ脅すだけは危なくないかと思った。 監督は男優たちに「ラブコメだと思って演じてくれ」とオーダーしたそうだ。 女性にとってはラブでもコメディでもなくHELLなのだが、 まあそう、男性たちにとっては暴力や犯罪や、そういうネガティブな行為ではなく ラブコメ、ラッキースケベといった明るい感覚なのだろう。 中盤、もしかして復讐が終わった後で ライアンに救われるパターンかなと思ったんですけども (男性の復讐ものには、彼をそっと見守る女性が出てくるのであれの逆転版かと) そんな甘い話で脚本賞が取れる訳なかった。 彼のあの、あんなに愛していた女性を罵倒する変わり身の早さ。 即座に「君は清廉潔白なのか」って言える攻撃性。 まあ彼にもきっと言い分はあるでしょう。 勝ち組ホモソーシャルに歯向かうものはギタギタにされるとか、 自分の恋人や妻や娘は守り通すとかそういう。 話はそれますが現在2021年、東京オリンピック・パラリンピック大会の 開会式で音楽を担当する方が1994年の雑誌で、 学生時代にハンディキャップを持つ生徒をいじめていたことを 武勇伝的に語っていた記事が掘り起こされ、国内外から非難を受けています。 彼を擁護する人がまさにその「じゃあ清廉潔白な人っていますか?」って 発言をなさったのですが、 普通の人は暴力をもって他人に糞便を食わせたりしないし、 意識のほぼない人間と性行為しない(これは心の中でしたいと考える人はいるかもだが)。 「これくらい普通だよね」の、「これくらい」の内容は 属するコミュニティや階層、年代、地域でかなり違うので、 うかつなことは言わないほうがいい。 (あと追い詰められた加害者の命を奪ってもいいのかという人がいますが どうせ自殺した被害者の数を上回ることはないでしょう。 それでトータルの自殺者数が減るのならオッケーでは?) 怒りや恨みを昇華、忘却する事こそがハッピーエンドである、とりわけ女性は。 と私たちはフィクションで刷り込まれている訳ですが、 私は全然そうは思わないので、こういうラストは好きです。 復讐は必ずしも故人のためにするものではないし、 一度壊れた人生は元には戻らないのです。 手錠は両方外れてしまうと腕力差で取り押さえられて警察を呼ばれてしまうので 片方だけ外れる必要があったのでしょうね。 ライアンも言っていたように、カサンドラはとても頭のいい女性だったわけです。 2021.07.18 サイトに掲載 2022.05.08 再掲載 戻る |