「シン・エヴァンゲリオン劇場版」 総監督:庵野秀明 監督:鶴巻和哉・中山勝一・前田真宏 とても良い完結編、とても良い風呂敷の畳み方だったので、 アニメを見てたとか、まあ映画も見てたとか言う人は見たらいいと思います。 若いうちに広げた風呂敷を、年取ってから畳むというのはいい方法かもしらん。 (エヴァ見たことないとか、エヴァ憎すぎて見たら目から血のでる人はやめておかれよ) 私は、見慣れないデザインや見慣れない動き、 見慣れない着弾や見慣れない射出がたくさん観られたのでとても楽しかったです。 あと性格造形。おおむね好ましかった。 9年前のQの続きです。 シンジくんが色々辛い目に遭った挙げ句、 プチサードインパクト的なものが起こった世界。 エヴァのパイロットたちは少年少女のままですが時間は経過して、 他のみなは大人になっています。 ショックで自閉モードに入ったシンジくんは、 自給自足生活を営む第三村に身を寄せるが……というあらすじです。 私はアニメ版は映画も含めてシリーズすべて、出た順番に履修済み(たぶん)。 パチンコとゲームとコミカライズは知りません。 好きなのは冬月先生と、映画版のリツコさん。 (2分割) 分割後半 全体的にバレ 言いたい放題言いますよ! 冒頭のマリの戦闘、今回も好き。 二足歩行ロボットの可動部分と可動域ひとつ取っても、 既存のアニメやゲームに倣う必要なんか全然なくて 新しいものを模索したほうがこんなに面白いんだってよく分かります。 また操縦方法が仮想ハンドルというのも、 マリの性格と動きが合ってていいんだなこれが! あと遊園地の遊具とか、タンポポの綿毛、 ウイルス、惑星クレイト、蝉の脱皮とか、 斬新なデザインのインスピレーション元を想像しながら見るの楽しかった。 大筋としてはそんなに珍しいものではないけど、 相変わらず考察好きを悩殺する固有名詞の散りばめかたで 衒学的雰囲気を醸し出してる。 イスカリオテのマリアとか、 ああいう名詞の着崩しテクみたいなのをちょっと混ぜるの、 センスだなと思います。 人物の彫り込み、トウジとケンスケがとくに良かった。 まず人間として良い人で、かつ男性としても魅力的な人を庵野監督が! (漫画やアニメ風の魅力的な男じゃなくて) あと、男性たちが家事を分担してる!すごく自然に! それととうとうシンジくんがケアする側に回った!これはデカイ。 物語は、登場人物のうち、精神的ケアを必要とする人の率が一定数を越えると めちゃグラグラになるので、 今回安定した印象なのはシンジくんが最終的に ケアする側に回ったのが大きな理由だと思います。 女性については、いつかも書いたけど、 女に対する過剰な期待と幻想と敵愾心と差別心、 自分をありのままで愛してくれなくちゃだめだし許さなくちゃだめ! みたいなのは、ほぼ消えた。 これに関しては身近に、思考を語ってくれる 賢くて仕事のできる女性がおられるのが原因ではと思う。 モヨコ先生ありがとうございます。気持ち悪いでしょうけど感謝させてください。 ミサトさんが権限のない無能なネーチャン、 シンジくんのエッチなお姉さん&お母さんではなくなった。 今回、策は大半裏目に出たが、権限はあったし責任もとった。 何より「シンジくんのお母さん」ではなくなったのは大きい。 リツコさんが碇司令を撃ったの、効いてはなかったけどスッキリした (むかしの庵野監督のお気に入りのモチーフ、 身勝手だけど渋くて有能で美学あるオッサンに若い女は身も心もメロメロ! ってやつ、痛々しくて正視できなかった)。 リツコさんはいわば冬月さんの鏡像だけども、仕事を全うした。マヤも。 綾波さんは、あまり大幅に変えられないのは分かる。 アスカは、とても良かった。 エンタテインメント的な面白さの最高潮は アスカがキメの一発を差し込んだところで、 この映画が単発ものだったらあそこがラストでも良かった。 マリも、最強のケア要員で、ケンスケがいなかったら、 アスカを幸せにしてくれ!マリ!って思ってたところです。 でもあのケンスケなら任せられる。 若く魅力的な女性キャラクターは全員主人公に矢印向いてないとだめ! 誰かに恋してないとだめ!って 太古のアホアホ恋愛脳種族が考えためんどい縛りも解けた。爽快。 冬月さんは、今回残念ながらブラッシュアップはなし。 碇司令は、この映画のメインイベントの役割をちゃんと果たされた。 しかしラスボスだけあって耐久力高くてイラッとした。演出は面白かったです。 縄文時代の生まれなので、バイザーの下の顔 「何かに似て……これは…ドム…?いや違う、ギャンだ!」って思いました。 身も蓋もないこと言うと妻がこの世の物質ではなくなった時点で死んでれば 消費する資源は縄1本で済んだのに…。 どうせ他人を100%完全に認識することなんか不可能だし、 ユイさんの場合、碇司令が認識してたのは 本人2割でフィルター8割くらいだろうから、死んだら会えるよ。 ディテールも良かったな。マリのブースの本棚とか、 第三村の列車の使い方、図書館になってたり、 配布用の服の仕分け、簡易風呂 (たぶん密閉度の高い立方体を生産する技術はなくてビニールで補ってる) とかああいうの。おそらく複数の被災地にモデルがあるのだと思う。 何回か繰り返している、という説明があったので、 過去作品すべて含めた決着なんだろう。 それで虚構を解放するという説明もあった(これはちょっと記憶がウロだけど) ので、作り手も観客も含めた全員が解散して現実に戻るんだろう。 繰り返しますが、ここまで広がりまくった風呂敷の畳み方としては上等だった。 監督お疲れさまでした。 ラストのメドレー、とても嬉しかった。 スターウォーズでもメドレーやりましたけど、やっぱり盛り上がる。 宇多田さんは(曲よし歌詞よし声よしなのは当然として) 発声なさるとき、単語の音節よりはリズム重視で、 歌詞をドラムのように繊細に変則的に刻まれてて、 息継ぎまでリズムのひとつになっていて、そのこだわり、あるいは天才ぶりが好き。 「One Last Kiss」はそれだけで物語のような、完璧な歌でした。 2021.03.11 サイトに掲載 2022.05.08 再掲載 戻る |