「ドクター・スリープ」











原作「シャイニング」映画「シャイニング」
原作「ドクター・スリープ」映画「ドクター・スリープ」
どれも見ていない人に向けて書くので
ガチ層はラストばれまで飛ばして大丈夫です。

それぞれ見出しを付けてねたばれしますが
原作と映画を間違えないようご注意ください。

スティーヴン・キングという作家がいます。
モダンホラーの帝王と呼ばれており、
映画化された作品は多すぎてちょっと数が把握できませんが、
2回映像化された作品は「シャイニング」「IT」「キャリー」
「ペット・セメ(マ)タリー」などがあります。
毛色は違いますが青春映画「スタンド・バイ・ミー」なども彼の作品です。
そしてスタンリー・キューブリック監督、彼も映画界の巨匠で
亡くなって20年経ちますが今も世界中に信者が多いです。
「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」
「フルメタル・ジャケット」などが有名ですね。
そんなキングの原作小説をそんなキューブリックが映画化しました。
どちらも天才です。
「シャイニング」はどちらにとっても代表作の1つとなりましたが
問題が発生しました。
キングは光のふじょしでしたがキューブリックは闇のふじょしだったのです。
(ふじょしじゃない)
キングは世界に邪悪はあるが友愛と善も確かにある、というスタンス、
対するキューブリックは蟻を見るような冷静な視点で世界を描写します。
2つの「シャイニング」は全然違いますがどっちも素晴らしい。
小説の「シャイニング」を私は今も読み返しますし、
どんな監督がどんな技術を使ってもキューブリックの撮った
オーバールックが一番美しいと思います。
あの熱で視界がぼやけている時のような色と、狂気の圧。
でもキングはキューブリックの「シャイニング」が大々々々々嫌いで(笑)
エッセイでもインタビューでも数十年ずっと悪口を言ってました。

原作「シャイニング」ラストばれ
人と違う能力を持つ少年ダニーは、
狂気の父親に追われ、命の危機に瀕し
同じ能力の持ち主で休暇中のコック、ハロランに助けを求めます。
ハロランはホテルが邪悪な場所であると警告をくれた人物で
ホテルから遠く離れた場所にいましたが、
少し会話しただけの少年を助けるために
真冬のホテルに命懸けで乗り込み母子を助けます。

ホテルに巣食うう邪悪な何かは、仕事に挫折したアル中の父親に、
「父権を回復したければ女房と子供を厳しく躾けろ(殺せ)、
そうすれば皆から尊敬を受ける」と囁きます。
しかし小説の父親ジャック・トランスは最後にそれを、はねのけ
ホテルを爆発させて妻子を守ります。

映画「シャイニング」ラストばれ
しかしキューブリックのシャイニングでは。父親はホテルの意思に
あるいはアルコールに負けて、最後まで妻子を殺そうと奮闘し、
結局は凍死してホテルの邪悪なものの一部になります。
そしてオーバールックホテルは無傷で残ります。
少年を助けるために来たコックのハロランは、
なぜかアル中の父親の一撃で死亡します。

そんな訳で怒ったキングは自分で脚本を書いて
「シャイニング」を再映像化しました。
結果は、文章向きの場面と
映像向きの場面は違うということがよく分かります。

そして「シャイニング」続編の「ドクター・スリープ」です。
ホテルから生き延びて母に育てられたダニーは
いつしか父と同じくアルコール依存に陥っていた。
しかし彼は友人と出会い、更生する事ができた。
時を同じくして、超能力を持つ子供の生命を吸って生きる集団が、
ひそかに獲物を探していた…というあらすじ。

ダニーを演じるのはユアン・マクレガー。
人生の辛酸を舐め尽くした目が実に良かったです。
蹴られるのを待っている感じ。

子供を拷問して殺すシーンと、手の先がズタボロになる描写があります。
それとげろが何回か。

小説は当然小説版の続編ですが、映画は映画版の続きです。
父親、ハロラン、ホテル、3点の違いをどうするのか?と思ってましたが

原作「シャイニング」ラストばれ
映画「シャイニング」ラストばれ
映画「ドクター・スリープ」ラストばれ

なんと、その差異を活かして、
シャイニングのラストを「ドクター・スリープ」に合体させた。
(言うまでもなくジャック=ダニーですね)
あとバケモンにはバケモンをぶつけんだよ!とばかりに
ホテルの霊をラスボスにぶつけた!
これはいいアイディアだったと思います。
(ホテルの霊は真結族ではないですけど、空気を読んで口から吸引したのでしょう)
それと例のボウルルームで、例のカウンターを挟んで対峙する
ジャックの亡霊とダニー。
(映画、原作両方の「シャイニング」で
生前のジャックは、前の管理人とカウンターを挟んで対峙しています。
前の管理人は家族を惨殺して死んでおり、つまり亡霊です)
ここは最高でした。アルコールをすすめてくるジャック。
「人の精神は黒板、そして酒は黒板消しだ」
という原作冒頭の文言。素晴らしかった。

映画は中盤までは比較的原作に忠実、
ただし後半は全く違います。
ライフルで一斉掃射とか、ビリーやお父さんが殺されたりとか、
2人でホテルに乗りこんだりとか、ああいうのはない。
(原作のホテルは焼失しているので)

原作とはアブラの人種が違う、たしかビリーも。でもまあ納得。
ダニーの協力者は数が減りました。真結族も減った。
原作にあった近親者からの性虐待話は削られ、
ダニーのアル中生活は短縮で随分マイルドです。
原作にで出てきたアベンジャーズやハリポタの会話は当然なくなるとして、
結構大きな役割だったゲームオブスローンズの
デナーリスのくだりもなくなり、代わりに
「RWBY」というアメリカのアニメのエメラルドというキャラクターになりました。
オーバールックはとてもよく似てた、しかしなんか狭かった。
幅と高さは同じように思えたが、何だろう。奥行?
237号室の女は、冒頭の出張販売はよかったが
あまりにも登場回数が多く、マスコットキャラクターみたいだった。
ちょっとキングユニバース展開をにおわせるセリフがあった(笑)
あ、ラストが違うので、タイトル「ドクター・スリープ」の意味がほぼ無い。

それはどうだろう、と思った点は、
原作のダニーはアブラの年齢を考慮して、
彼女の父親と母親に事情と今後の方針を全部説明して、
そしてアブラには危険が全く及ばないような計画を立てました。
でも映画のダニーはわりとそのあたり無頓着だった事、これが1点。
映画のダニーは過去に一度助けを求めた人物ハロランが無残に殺されているのに、
危険な場にビリーを葛藤なく連れていくだろうか?
そのビリーが亡くなって、あんな風にキビキビと目的を果たせるだろうか?
それは人生を時系列で追った場合、あまりにも人の心がなさ過ぎて
架空の人間丸出しすぎやしないだろうか、と思った点、以上2点です。
30年以上まったくメンテナンスしなかったボイラーとか
そういうのは些末なことなのでもういい。

原作「ドクター・スリープ」ラストばれ
映画「ドクター・スリープ」ラストばれ
原作でのダニーは友人、理解者に恵まれ
大切な役割を負って今後も生きていきます。
原作では誰も死にません。もちろんダニーも!
キング、光のふじょしよ…(ふじょしじゃないって)。

映画を気に入った方には原作おすすめですよ。
「シャイニング」「ドクター・スリープ」まとめて読んでも、
そんなに長くないですし。









2019.12.03 サイトに掲載

2020.01.01 再掲載





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