「グリーンブック」









ピーター・ファレリー監督
アカデミー賞作品賞、脚本賞、助演男優賞獲得。

クラブの用心棒をしていたトニーは、
店舗改装のために一時的に失業し、
黒人ピアニスト、ドクターの米国南部コンサートツアーの
運転手兼世話係として雇われる事になる。
最初のうちは有色人種に対して偏見を持っていたトニーだが、
南部の人種差別に対するドクターの毅然とした態度や
彼の音楽の才能に自然と認識を改めていくというロードムービー。
学がなく粗野だけれど家族思いで陽気なトニーと、
上品で理知的で孤独を抱えたドクター、
正反対の2人が互いに影響を与え合って変っていく、
その過程のために用意された細かいエピソードが豊富で
圧倒されます。

ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリ主演。
さすがにお2人とも巧いとしか言いようがない。
ヴィゴは目の印象が知的で、粗野無教養な役はどうだろう…
って思うんですが、演技力で何とかしてました。
20キロ太ったらしい。ものの食べ方もすごかった。
ピザの食べ方に衝撃を受けました。本場の人はああいう風に食べるの!?
マハーシャラ・アリは「アリータ」にもでていらしたので
連続でこんにちはなのですが、こちらの役は
表情で多くを表現しないといけないので、
本領発揮と言わざるを得ない。
南部の差別シーンはきついですが
性的なシーン(ちょっと匂わせる程度)、過度の暴力シーンはほぼない、
誰と行っても楽しめる映画です。おすすめ。

ラストばれ

最初は黒人作業員の使ったガラスのコップを捨てる程
偏見の酷かったトニーですが、性質は素直なひとなので
ドクターのピアノの演奏を聞いて彼の才能を認め徐々に態度を改めます。
ドクターも、黒人への一種の偏見であるフライドチキンをすすめられ、
手が汚れるのを嫌がりますが、でも食べてみて気に入る。
言われるまま、車窓から鶏の骨を投げ捨てたりもする。
(でも紙コップを捨てるのは許さないし、そこは曲げない)
2つの常識の攻防が本当に面白かった。

有色人種は白人と同じトイレは使えない、夜に外出してはいけない、
服の試着も出来ないし、レストランで食事もできない。
差別はとても楽しいと感じる人が思ったよりたぶん多いので、
こういう時代に戻ろう戻ろうとする動きもありますが、とんでもない。

ドクターの仲間の音楽家2人も、
ドクターの執事の人も、トニーの奥さんも、みんないい人達で、
よいクリスマス映画でした。
最後警官に撃たれるかと思ってヒヤヒヤしましたが、
普通のいいお巡りさんで良かった。
あとドクターが1人のまま終わらなくて良かった。
映画を見終わったあと、ケンタッキーフライドチキンが食べたくなる。
あとカティーサークを飲みたくなります。

ピッツバーグ、イタリア語、翡翠の石、そして手紙の代筆、
あとで回収されていく前振りや伏線が多くて面白かった。


論争
以降は、感激に水を差す内容なのでご注意ください。
異人種間の友情を描いた作品でありながら、
主な製作スタッフに有色人種がいないこと、
脚本にトニーの息子氏が名を連ねていながら、
ドクターの親族には打診すら無かったこと、
内容が、主人公の白人に模範的な黒人が気付きをもたらすストーリーである点が
バッシングを受けました。
アカデミー賞の作品賞候補に、おなじく差別を描いたスパイク・リー監督の
「ブラック・クランズマン」があって賞を逃し、
この「グリーンブック」が受賞したことで更に火が付きました。
(まあこれは女性差別と性暴力を描いた女性監督の作品が賞を逃し、
万事控えめな女性が中年男性主人公に優しく差別の現状を教える内容を男性スタッフが撮った作品が
受賞したと考えると、激怒するスパイク・リー監督の気持ちも少しわかる気がする)
(がしかし、作品の面白さはクリエイターの思いや感情の強さに比例する訳じゃないからな…)
尚悪い事に、20年ほど前に監督が、製作現場で女優含むスタッフに対し
性器を露出するジョークを頻繁に行っていた記事が発掘され謝罪、
脚本に名を連ねるトニーの息子氏が3年前に「911の際にイスラム教徒が大勢集まって
踊って喜んでいる映像を見た」という書きこみをネットにしていたことが判明、
(このイスラム教徒が集まって喜んでいた話はデマであることが検証済みである)
謝罪というグダグダの流れ…。
セクハラジョークは論外にしても、
自分が迂闊気味だなーって自覚のあるクリエイターおよびその卵は、
SNSの発言を慎んだ方がいいんじゃないですかねそろそろ…。
あと男性監督より女性監督のほうが過去のイタタやらかし確率が低いのでは?

今後は、被害者のいる事件を起こした人物の作品は、監督・役者・漫画家・小説家、
示談、有罪関係なく、ネット上で称賛意見を書くのはやめようかと
私は考えているところなのですが
(どの言語の国の人であっても翻訳可能な以上、被害者に無力感を突き付けたくないので)、
この件は20年前の露出かー、うーん、ってしばらく考えました。
お金を払ってるのだから、普通に作品を楽しませてくださいお願いします。










2019.03.04 サイトに掲載

2020.01.01 再掲載





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