「万引き家族」








是枝裕和 監督

古い日本家屋で暮らす老女と中年の夫妻、
若い女と少年、一見普通の家族に見える5人は
しかし血のつながりは一切なく、
老女の年金と夫妻の仕事の賃金では到底生活費が足りず、
彼等は主に万引きで食いつないでいた。
ある日彼等は冬の夜ベランダに放置されている少女を見掛け、
見かねて家に連れて帰るが…というあらすじ。

カンヌでパルム・ドールを受賞。
そして公開日に重なるように、劇中で起こった事と似た事件が
現実であり話題になりました。

お金はなくても温かい気持ちがあれば幸福だし、
心の繋がりがあれば家族である…というような映画ではない。
もっと複雑です。
複雑なのは情報量の多さで、
「治と信代と祥太」「初枝と亜紀」「祥太とゆり」、
普通の邦画だったら3本撮れてると思う。

演技力頂上対決戦、みたいなところがあり、
巧い人ばっかりだったけど、
中でも安藤サクラさんがすごかった。
あまり形相を変えずに薄く笑ってる、けど他を圧する演技。

内容ばれ

食べ物のエピソードがやたら多いのがいい。
あと怒鳴るシーンがほとんどないのもいい。
みんなで暮らしているパートは
楽しそうで、明るく撮ってあるのに対し
破綻直後は照明が暗いシーンが多く、セリフも少なめ。
正しさの破壊力と強さ、という感じだった。

しかし暴力がだめなのは当然として、
子供に万引きをさせるのも別方向の虐待であるというのは
駄菓子屋さんのシーンと、車上荒らしのシーン、
その後の祥太の行動で表現されてると思う。

ニュースになった彼等を見てちょっとぞっとしたんですが、
彼等の心情を抜いて、起こった事実だけを箇条書きにすると
ホラー映画「クリーピー」と区別がつかないのが、現実の難しい所です。
(他人を丸め込んで家に入りこみ、たかって生活して殺して埋める)
虐待も、現実はもっと黒白混沌としているのでしょう。
法の限界というか。

予告に使われていたセリフが、わりと編集されていたのが分かった。
ちょっと感動系に偽装している(笑)
「内緒だぞ。俺達は家族だ」は鬼編集。

おばあちゃん良かった。
私はお金目当てではなかったと思う。
お金も3万円ずつちゃんととってあったし、
亜紀ちゃんに渡すつもりだったのでは。
夫妻がガメたので分からなくなっちゃったけど。

あっ、あと重箱の隅だけど、リリーさんの松葉杖を持つ手が逆だったので
伏線だとしばらく思ってた!映画的文法で、わざとなのかな?

コロッケとカップ麺を食べたくなる映画。







貧困について

貧困を描いた映画
「わたしは、ダニエル・ブレイク」2016年
「フロリダ・プロジェクト」2017年
副次的に貧困を描いた
「レディバード」2017年
「アイ、トーニャ」2017年
そして「万引き家族」2018年、
心正しき人が苦しみ、不幸になり、或いは死に至るお話を
観客が涙して、エンタテインメントとして消費する流れは
そろそろ終わりにきているように感じます。
猛烈な怒りが主に描かれたり、強さが描かれたり。
そして多くの人にとって、貧困は娯楽で見られるような他人事なのか?
本当に?という。なんとなく世界的にそういう流れを感じる。

それとは別に、貧困はエンタテインメントに成りうるか?
というのは昔からずっと思ってて、
豪華なお屋敷やお庭や美しい衣装の美しい男女などは
見ていると幸せになりますが(私は)
疲れている状態の社会人が、金を払って、
食うに困っている人々を見たいと思うだろうか…?
果たしてそれはエンタテインメントか?という疑問に対する
アンサーもそのうちに出てきそうで楽しみです。
貧困を描いた映画、徐々に増えていきそうなので。







2018.06.14 サイトに掲載

2019.01.01 再掲載





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