「シェイプ・オブ・ウォーター」








デルトロ監督、アカデミー作品賞・監督賞受賞おめでとうございます!
アカデミー作品賞って、「ロード・オブ・ザ・リング」を例外として
歴史、戦争、犯罪、実話、社会問題、悲劇、悲恋、悲劇、とか
そんなのばっかりなので、作品賞受賞は無理かも…とちょっと思ってました。
でも賞のほうが変わりつつあるのかな?
65歳以上の会員さんが多いと聞きますが、この作品を実際に見て
票を投じられたのだとしたら感性の尖った人が多いのだな。

これは子供には分からない大人のための絵本で、
ものすごく美しい色で描かれていますが同時にものすごく醜いものも映るし、
残虐で、かつ純粋な、血と汚物とサイコパスと、善意と無垢とロマンスの物語です。
若いデルトロ監督には撮れなかったし、10年後のデルトロ監督にも撮れないであろう
今だけの奇跡のバランスです。
でもみんな見てねー!ってタイプの映画じゃない。

ねこが残酷に死にます。あと、きつめの人体損壊があります。

60年代、航空宇宙研究所で清掃の仕事をしているイライザは、
子供の頃に喉を裂かれて口がきけないというハンデがあったが、
理解のある友人と猫たちと共にひっそり暮らしていた。
ある日、研究所に水棲生物が運ばれてくるが、
凶暴性を見せるその生物に、彼女は知性を認めるというあらすじ。

全部ばれ

画面全てがドレスの柄のようでした。
色が本当に素敵だった。緑が差し色。
映画館上階にある彼女のお部屋の内装が特別に好きです。

この映画、ヒロインを普通に若くて美しい女性にして
ハンデはあるけれど知的で勇敢で、でも男性は怖い。
そんな彼女が魚人と出会って、彼の知性に気付き…という話にしたら
完全にディズニー鉄板コースで全年齢むけ、興行収入は倍になったと思いますが
デルトロ監督は絶対そうしたくなかったのでしょう。
ラブロマンスは若い美男美女だけのものか?女性は選ばれるだけか?
性の相性はどうするのだ?異種間の意思の疎通はそんな生易しいものか?
等々、わりと詰め込まれていました。
女性が常に選ばれる問題に関しては特に「魚人大丈夫…?性虐待されてない…?」
って心配になったくらい(笑)

イライザ、登場と同時に自慰をおっぱじめて、
うわー!「ヒロインは性的に無垢、消極的なのが望ましい」っていう
アジア男女両方のニーズを冒頭から鉄拳粉砕だー!!って思いました。
(でも川に捨てられてたイライザの人生も性も全部水に縁があるんだなっていう一連の流れは好きです)
彼女は痩せた中年女性で、そして性格も控えめで知的で忍耐強い…とかでは全然なく、
結構人の親切に無頓着で、忠告とか聞かない。聞く素振りすらしない。
やりたい事は後先考えずにやってしまう。自分の意志を押し通す。
気に障ったら上司にファックサインを出すし(わりと素で)、めっちゃ我が強い。
でも友達のことは大事にするし、仕事仲間のゼルダとかは
イライザのそういう変な所が好きなんだと思います。

1人の女性が、全自分、これまでの人生の時間と精神を賭けて恋愛をする話から
「口のきけないハンデがあっても、こんなにかわいい子ならOK」
っていうルッキズムジャッジメントを排除したかったのではないかしら。
女性の自己投影・感情移入も、男性のポルノ目線もシャットアウト。
でも気付いたらイライザと魚人に寄り添って、いつのまにか励まし喜んでいるようなお話でした。

イライザのお友達が皆好ましい人なのも、とても良かった。
主人公を助けるだけのご都合主義マイノリティではなくて、
ジャイルズは片想い中のクズ男に失望して決別(そして毛が生える)、
ゼルダも(たぶん)クズ旦那と決別するというそれぞれの物語があります。

無自覚に他者を圧殺するマジョリティ&ホモソーシャルを痛烈に皮肉っていますが、
彼等自身そのシステムに囚われていて抜け出せない面も描写されています。
ストリックランドは「パンズラビリンス」のヴィダルが転生した男だと思うんですが、
性格造形がグレードアップされてる。

これもしかして、クトゥルフ・ユニバース展開して
最終的に「狂気の山脈にて」につながるのでは…?と思った。
見たい!監督がんばって!









2018.03.12 サイトに掲載

2019.01.01 再掲載





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