「否定と肯定」









実際にあった、アーヴィング対ペンギンブックス・リップシュタット事件の映画化。
アメリカのホロコースト研究家の教授がその著作の中で、
とある英国人歴史家をホロコースト否定論者でその主張はでたらめだと指摘するが、
英国人歴史家が名誉棄損で訴えたため、英国の法律に則って
彼女は英国人歴史家のホロコースト否定論が虚偽であると法廷で証明しなければならなくなる。

ホロコースト否定論者のひとがほぼ完全悪として描かれています。
本人が見たらどういう気持ちがするもんだろうこれ。
彼の手口は、虐殺を生き延びた証言者たちを追求し、
ささいな記憶の欠落を責めたて嘘つき呼ばわりし、
ガス室は死体を消毒する場所だったと強固に主張するというもの。
自身の人種と性別が自尊心に直結していて、
ヒトラーの思想が自尊心の養分となっているため、それを否定されると死ぬのかな?
という推理が可能でした。映画内の設定では。

彼が裁判に勝つことはあってはならないので、非常にハラハラした。

マーク・ゲイティスさんとアンドリュー・スコットさんの
SHERLOCK組が出ている。

判決の結果ばれ

人種差別主義、女性差別主義、ヒトラー崇拝、声のでかいオッサンという
ある種の役満みたいな人物を
かしこい人たちが社会的に拳で叩きのめす映画なので、
とてもすっきりする。そういうエンターテインメント。

しかしこんなに脇が甘くて負けの見えてるオッサンを放置しておくということは、
少なくとも1996年の時点ではホロコースト否定論者やネオナチには組織力や財力がないのだな…
と思ったけど、この映画の元となったリップシュタット女史の手記を見ると、
アーヴィング側に4千人を越える資金提供者がいたとのことで、ヒエーとなりました。
中には著名人もいて、手記では仄めかしてあったので、
映画でも最後に字幕で流してとどめをさしたらいいのに、とは思いました。

しかし優秀な拳となった最高の弁護団を
長期間にわたり抱える費用は莫大で、勿論それは教授個人に払えるものではなく、
出版社や大学や、裕福な支援者、おそらく多くはユダヤ人から支払われたのだけども、
忘れてはいけないのは、悲劇はどんどん風化するし、
ある日突然なかった扱いになるかもしれなくて、
お金がなければそれを食い止めるのは難しい事。
この映画とは関係ないけど、
たとえばホロコースト関連映画の本数と
アメリカ先住民虐殺に関する映画の本数の差にも
それは表れていると思う。
あと結果的に学術の正当性の可否を裁判所で争う事になったのは少々危うい。

法的には、誤った事実を本人が信じていて、
それを言い散らす分には何の問題もないが故に、
事実を知りながら故意に歪曲していた証明が必要だそうで、
裁判の終盤にちょっとヒヤリとするシーンがあるんですけど、
インチキ治療にインチキ健康法、ウソの歴史、有名人に関するデマ、
あらゆる妄言がすぐにネットで拡散される現在、
なにか法を補助するシステムが必要かもなあと思いました。

それにしても旗色が悪くなるとすぐに話題をずらして、
相手が答えに詰まると「完全勝利!」って宣言するメソッド、
万国共通なんだな。どこかに教科書でもあるのか。











2017.12.11 サイトに掲載

2018.01.30 再掲載





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