「ハドソン川の奇跡」








クリント・イーストウッド監督

2009年のUSエアウェイズ着水事件を描いた映画です。
バードストライクにより左右両エンジンに推進力がなくなり、
空港に引き返すのは不可能であるという機長の咄嗟の判断で
ハドソン川に着水した航空機が、
奇跡的に1人の死者も出さなかったというお話。

まるで映画のようにドラマティックな出来事ではあるけれども、
状況が2転3転する訳ではないし、
物語を構成する要素はそんなに多くはないのですが、
そこは鉄腕イーストウッド監督、見事な作品に仕上がっています。
事故と、乗客のドラマと、機長の葛藤と、
事故後の調査と、家族の戸惑いと、
救出の様子などのエピソードの順番と
カットバックのリズムによる魔法でした。

当時職場で、事故映像を見た航空機の好きな人が、
いかに奇跡的で神がかったフライトテクなのかを熱弁なさってたな…。
そして機長、冷静沈着で自制的で、そして謙虚で、
(実際の事故の記録や、彼の言葉を読んでも)
フィクションの中の人のようでした。

内容ばれ

航空機メーカーはマシンの瑕疵ではないと主張したいし、
保険会社はなるべくお金を払いたくないだろうので仕方がないとは言え、
あの奇跡的な出来事ですら
「空港に引き返せたのではないか?」
「機長の精神に問題があったのではないか?」
と追及されるのにびっくりした。
事故後、家族に会えなくて世間から隔離されて、
カウンセリングにもかかれず、
妻からはローンが払えなくなるから早く仕事に戻ってくれって言われるとか、
(これはどこまで事実か分かりませんが)
私ならストレスで発狂してます。
だからこそ調査委員会で、先方の主張がバーンと覆るところはスカッとしました。
このへんも監督の意図通りなんでしょうけど。

それにしてもあの、コンピューターが演算しても
入力条件によって結果が変わる高度なシミュレーションと同じ内容を
瞬時に判断して空港着陸ではなく着水を選ぶ機長の経験と技術、
全身が計算機となっていたあの瞬間に、
人間の能力はすごくて果てがなくて、
まだまだ機械などは及ばないな!と思いました。

エンドクレジットで「本人役」の人が散見されました。
あの日、現場にいて救出に向かった人々なのだそうですが、
最後のテロップに出た、救助に携わった人の、
数の多さにもまたびっくりしたのでした。
着水が成功したのは機長の機転と技術ですが、
凍死者が1人も出なかったのは、
救出にあたったひと全員の善意と頑張りのお陰で、
作中でも言われていましたが、昨今珍しい
人を明るい気持ちにさせる大事件でした。










2016.10.10 サイトに掲載

2016.12.30 再掲載





戻る