「ズートピア」









肉食動物と草食動物が本能を克服して
共に文化的生活を送っている世界で、
子供の頃から警官になるのを夢見て
努力してきたウサギのジュディは
種族として初めて採用され、理想都市ズートピアにやってきた。
その頃問題になっていた連続行方不明事件の捜査に
加わりたいと望むジュディだが、
任されたのは駐車違反の取り締まりで…というあらすじ。
差別を許さないというメッセージと多様性礼賛のめっちゃ重いテーマを、
サスペンスとバディコメディにふんわりと完璧にくるんであります。

キャラクターの立て方が上手く、サスペンス部分もよく出来ており、
ギャグもレベル高いという、まったく隙のない脚本です。
たぶん絶賛するのは女性の率が高いと思いますが、
アナ雪ほど男性の拒否感は強くないと思います。
世界中のたくさんの男児くんと女児ちゃんに見てほしいです。
(こわがりの子には、ちょっとだけ怖いシーンがありますが)

原案は7人体制で、
ラプンツェル副監督、シュガーラッシュ監督、ベイマックス脚本家、
シュガーラッシュ・WALL-E脚本家、アナ雪監督が参加しています。
アベンジャーズ状態です。
それでも我の張り合いで話が破綻したりせず、融和しているのがすごい。
あと途中に出てきたアイテムやセリフやシチュエーションを
後半にうまく拾って使っているシーンが無数にあります。
この作業は複数人でやるのが難しいと思うんですが、
うーんプロだなあという感じ。

少し内容ばれ

冒頭のわずか数分の寸劇で、原始時代じゃないんだから、
草食動物だって警察官になれる!と幼い主人公が語ります。
そして肉食動物も獲物を追わなくてよく、強さを強要されない!
という主張もされます。
(これ駄目な脚本だと終盤に持ってきて、15分くらいかけて主人公が語ります)
でもそのあとで、主人公は両親から
「幸せになるためには高望みしないのが肝要だ」って諭され、
更に、弱い者いじめをしていたキツネに注意したら、
力で抑えつけられ、顔に傷を付けられ、ウサギであることを馬鹿にされます。
これが女性や有色人種の差別シーンだったら大人でもつらくて見てられないし、
差別のお手本を子供に見せる事になってしまうので、
キャラクターが動物なのは絶対必要条件です。

内容ばれ

大抵の映画の泣かせどころは、別離とか献身とか病気とか、
抗えない苦難な訳ですが、
この映画は主人公のジュディがあまりに真っ直ぐに強くて、それにガツンときて
がんばれ!って思って泣いてしまう感じです。
そしてどんな逆境でも絶対泣かずに乗り越えたタフなジュディが、
自分がニックを傷つけてしまったのを痛感してボロボロと泣く、
(いや私は基本加害者は泣く権利ないですって思う方ですけどジュディは許す)
あのシーンでも泣いてしまいましたね。
そう、主人公も間違えるし、一方的な被害者とかいないっていうのも、
一歩先に進んだお話って気がします。

動物ヌードねたとナマケモノねた、狼ねた、
ゴッドファザーねたが好きだったんですが、
これ二次創作したら楽しそうだなあぁぁ!って思います。
動物の特性を生かしたオチの警官バディものミステリーとかね!
ジュディとニックは今風の完全対等コンビなので、
ブロマンスものと、もはや差異はない感じ。

複数人原案or脚本家体制について(創作をする人向けの話)

作品のコンセプトと、主な対象者が決まったら、
その物語に必要なエピソードというのは完全に優劣が支配するべきで、
個人の好みの出る幕はない。
キャラクターのためのエピソードも、サスペンスのためのエピソードも、
差し挟まれるギャグシーンも、70点の物と85点の物なら
単純に点の高いものを選んで低いほうを切っていけば隙のないものができる。
例えば性別による好みで言えば、
もっと男性が女性のピンチを救う冒険シーンが欲しくなるだろうし、
趣味で言えばもっと陰惨な事件がいいとかあるだろう。
でもそういうのを抑え込める人であれば複数人でも1つの話が作れると思うし、
数が多いほうがそりゃあアイディアは豊富になるだろう。
もちろんエピソードの優劣が見えるというのは最低条件で。

日本は1人の天才に頼ろうとする傾向にあるので、
もうちょっと、このシステムに着目してもいいのでは?と思う。

絶賛しましたが、王道もの、歪みのないものが好きでない方には
この作品は地雷だと思います。
複数人原案・脚本家体制の唯一の欠点が、
作家性や偏りのようなものを出すのは難しいという点なので。
あと好みの点で言えば、私はズートピア<ベイマックスです。
ズートピアの方が隙と荒がなく、より完璧に近いんですけどね。










2016.04.28 サイトに掲載

2016.12.30 再掲載





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