「完全なるチェックメイト」 ソ連が圧倒的に優位だった時代のチェス界で、 アメリカ代表の若き天才ボビー・フィッシャーが 国の威信をかけて世界タイトルに挑むという内容。 実話です。 天才の優れた部分と欠けた部分をエンタメ的に描いてて面白いです。 ボビーは集中力に優れ、記憶力もあり、 発想が素晴らしく、なにより絶対に他人に負けたくない、 自分が勝ちたいという闘志が桁外れという、 チェスをするための才能をフルセット持って生まれたような人。 そのかわり、知覚が過敏すぎ、気分屋で、金銭を欲し、 言動が一定せず、奇行に走り、 周囲の人間の事は召使程度にしか思っておらず、 チェス以外に関しては全く気持ちを動かしません。 そんな彼に、対外交渉を一切取り仕切る弁護士と、 チェスの名プレイヤーである神父が付き添って、 まるでレーシングカーをメンテナンスするスタッフのように、 あるいは父母のように、細やかにボビーのケアをします。 彼等の忍耐力がいつ尽きるか、割とハラハラしました。 内容ばれ しかし愛国者を名乗る弁護士は、 国の威信とおそらくは自分の利益を一番に考えており、 神父もボビーのためというよりはボビーの作りだす 唯一無二の美しい指し手のために彼の面倒を見ており、 本当に彼のためを思うなら病院へ行かせるべきだったし、 むしろチェスの才能がなければ、親族が彼を病院へ連れて行き、 症状はあそこまで酷くならなかっただろう、という気がした。 (作品内では。実際のところは盤外戦の一部だった可能性もありますが) あと、映画内では、耳栓さえあれば…耳栓さえあれば あと数年は正気でいられたのに…って思った。 実際問題として映画内のレベルで現実認識能力が低下して、 それでも対戦で相手の手を何万通りもシミュレートして、 新しい手法を編み出すなんてことはあり得るのだろうか? それともあれか、脳内チェスアプリがリソースを食うから、 普段の生活に必要なアプリをガンガン消去したらああなった感じか? ボビー・フィッシャーの鬼気迫る狂乱を演じたのは、 無印スパイダーマン役で有名なトビー・マグワイア。 若さと無邪気さと傲慢さがドロドロと混ざった天才を過不足なく表現しておられました。 ほか、存じ上げなかった俳優さんだけど神父役のピーター・サースガード。 抑え目の演技がいい具合だった。3局目のボビーの描いた策を誰よりも早く見抜いたのが彼で 気付いた時の笑顔が、純粋だけども憑りつかれた人のそれだった。 あとロシアチャンプの方も、世界NO1でメンタルも強いとか、 バケモノだなーと思わせておいてからのあれは一種のどんでん返しレベルで凄かった。 チェスの歴史において、最高傑作であると言われているらしい ボビーの第6局、棋譜は1手1手動くやつで見たのですが、 どうすごいのか分からなかったので解説を読みたい。初心者向けのやつ。 ボビーはその後、奇行を繰り返しながらも アルコールや薬にやられず、長生きなさったようなのは大変良かった。 日本で暮らして、日本人女性と結婚されたりもしたようです。 天才がやがてその才能に身を食われて破滅する映画って一定数ありますが、 (この映画は破滅とは少し違いますが) もしかして多くの人は、無意識のうちに天才が破滅するところを見たいのかもしれません。 悪者が成敗されるところを見たいのと同じくらいに。 2016.01.04 サイトに掲載 2016.12.30 再掲載 戻る |