「アクト・オブ・キリング」








すごい映画です。
こんな作品は2度と撮れないだろうから、
様々な学問の資料として、長く保存されてほしい。
1965年、クーデターにより統治者の替わったインドネシアは
右傾化が進み、やがて100万人以上の被害者が出たとされる、
共産主義者の大虐殺が始まりました。

この映画では、過去に虐殺をおこなった男達が、
当時の殺人を再現するお芝居を演じるのですが、
何がすごいって、インドネシアでは50年前と比べて
倫理観に変化がなく、虐殺者たちは罰せられたりしておらず、
現在も治安維持の貢献者として持て囃され、
家族に囲まれて幸せに暮らしているという点です。
なので実に誇らしげに、共産主義者たちを
こういう風にして殺した、家を焼いた、女に乱暴した、
中国人を片っ端から殺した、とにこにこ語ります。
落ち込んでいる時に見ると精神的に死にますのでご注意。

イギリス・デンマーク・ノルウェーの共同作品で、監督はアメリカ人です。

「どうしてこんな恐ろしいことが繰り返されるの?」とかアニメでよく聞くセリフですが
そりゃ、楽しいからでしょう。
全員ではないにしろ、何分の1かの人間にとって、
自分より弱い立場の人間を怒鳴って、痛めつけて、惨めに泣かせて、
なぶって、俺TUEEEEE!をやるのは楽しい事なんですよ。
普段はやらないけど、きっかけがあればやる。
きっかけがあっても出来ないようにするにはどんな手段があるかを考えなくてはならない。

たくさんの人が死ぬのって、
大抵「金、宗教、指導者が基地外」の3つの原因うちどれか1つ、または2つですね。
このケースは、大本の原因をアメリカが作っている。
共産国との陣取り合戦で布石を打ったはいいが、
(共産寄りの大統領を、クーデターを使って葬った)
人選を誤って基地外を据えてしまった。

ラストばれ(明るくないです)
当時の拷問と殺害をご機嫌に演じているうちに、
主演の人の心境に変化が起きて、自分の過去の行為を恐れ始める…
というラストですが、
私はあの結末、かなりの割合で誘導されたものだと思います。

監督には思い描いているラストがあって、演技者をそこに導ける知性があった。
主役にはおそらく欧米コンプレックスがあり、監督の意図を察する知性はあった。
途中で「虐殺の件で国際司法裁判所に呼ばれたら行く」
「有名になれるから」って言ってたじゃないですか。
彼は映画スターに憧れていて、有名になりたいんです。

そして1000人は盛りすぎにしても、100人前後は殺しているだろう彼が
あれしきの質問で変わるとは考えられない。絶対に。
彼は今後もハッピーに生活していくと思います。

あと思ったのは
・宗教はこういう場合、全く訳に立たないな!ということ。
 だって笑いながら「神も共産主義者が嫌いだ」って言ってるもの。
 まだ幽霊譚のほうが威力を発揮する。
 虐殺のあった場所では必ず幽霊が大勢出る話を聞きますが、
 無残に死んだ人が化けて出る物語のフォーマットは絶対絶やしてはいけない。
・美人の共産主義者は全員乱暴するし、それが14歳だったら最高だ!
 って言ってたけど、人種別のロリペド率を誰か本腰入れて調べてくれないか。
・ホモソーシャルと暴力の相性抜群!
 彼は人殺しだからみんなに恐れられていたが、
 俺だけは別だった、って顔をテカらせて自慢する男を見て、
 あーはいはい、と何か理解した。
・テレビの女性リポーターが虐殺行為を誉めそやしているシーン、
 現実に放送している番組なのがすごく怖かった。
・子供の頃、家族が殺されて、村人は誰も助けてくれないから
 自分が穴を掘って死体を埋めたという話をするひとを
 笑いながら見ている加害者団体。
 話し手も今は加害者組織に所属しているので内心は分からないが 
 笑い話として喋っている。本当にシュール。
・彼等がモンスターで、彼等をやっつければめでたしめでたしという訳ではなく
 倫理はどんどん変わるツイスターゲームなので、頑張れるだけは頑張りたい。
 でも良い事にしろ悪い事にしろ、徒党を組むのは危険。

万が一出演者がエゴサーチをして、自分達が映画スターのように言われてないか
確認していたら腹が立つので、
原題と「虐殺者は地獄へ落ちろ」ってメッセージを英語で書こうとしましたが
そういえばこの日記はものすごい検索避けをしているのでやめた。










2015.08.07 サイトに掲載

2015.12.30 再掲載





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