「カポーティ」








ベネット・ミラー監督

トルーマン・カポーティがカンザス州で起きた一家4人殺害事件を知り、
その犯人の生涯と事件の詳細をインタビューし
死刑になるまでの様子を綿密に綴ろうとする過程を撮った作品です。

家族の縁の薄かったカポーティは2人組の犯人の1人にシンパシーを抱き、
甲斐甲斐しく彼の世話を焼きます。
しかし同時に彼が死刑にならないと結末が書けないので
死刑が早く行われることを強く望んでいます。
死刑囚は作品のためにカポーティに利用されているのではないかと疑いつつ、
彼に友情を寄せます。
「フォックスキャッチャー」でもそうですけど、
多くを語らない、音の少ない、圧迫されるような演出で
縺れ合った重い感情を表現するのが大変巧いですこの監督は。

内容ばれ

ハンストで衰弱した死刑囚にベビーフードを買ってきて
スプーンで食べさせてやったり、暖かい言葉で友情を語ったりするのに、
「冷血」というタイトルを知られてはまずいので、
本の題を死刑囚に尋ねられたときにまだ決まっていないと平気で嘘をついたり、
彼を放っておいて1年旅行に出掛けたりする。

冷血とは、殺人犯の事を指すのか
それとも殺人犯を無慈悲に利用して名声を得ようとする作家の事なのか
と質問するシーンがあるが、それがこの映画の核の部分だと思う。
でもきっとそんなのは当人にも分からないんじゃないだろうか。
彼等の友情はずっと対等ではなかったけど、
最後に逆転して、それでも矢張り対等にならなかった。
立場が入れ替わっただけだった。
カポーティはその後、小説を完成させることができなくなった。

最後の注釈がちょっと気になったのですが、
「叶えられなかった祈りより、叶えられた祈りの上により多くの涙が流される」
はタイトルの元になった言葉で、
彼の未完の小説の題名はあくまで「叶えられた祈り」じゃないのかな。

「冷血」はノンフィクション・ノベルという手法が初めて使われた小説なのですね。

犯罪者が死刑になる小説を書く映画だし、
カポーティはこれ以降小説を1冊も完成させられなくなってしまったし、
その後書いた未完の作品「叶えられた祈り」のせいで自殺者が出たし、
カポーティー自身失意のうちに死んだし、
主演のフィリップ・シーモア・ホフマンも亡くなったし、
死の匂いの濃密な作品です。









2015.03.10 サイトに掲載

2015.12.30 再掲載





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