「ゲド戦記」



えーと、酷評をともかくいっぱい目にしていたので
「そこまでは…酷くない…かな?」という感じ。
ただ私は原作3巻までを大慌てで読んでから見たので
それが効いたのかもしれません。
未読の友人は「……訳が分からんのですが」と
呆然としていました。
しかしとりあえず「デビルマン」と比較するのは失礼かなあ。
なんか、やりたいことは分かりましたよ一応。

(ねたばれ)

アレンのダメ人間ぶりで客にストレスを与えて
終盤に真人間になった彼のアクションでカタルシスとか。
ツンデレのテルーにとことん嫌われても
最後に真の名前を打ち明けあってラブラブカタルシスとか。
虐げられてセクハラされて暴力を振るわれる弱い弱い女の子が
最後で最強の竜になってファイアーで空飛んでカタルシスとか。
そういう狙いなんですよね?
ただ見境なしに色んな巻や別作品の要素を合体させ、
「???」という設定多数のままフォローを入れないものだから、
物語がフランケンシュタインかキメラみたいになっちゃってる。

良かった点

雲の色
一瞬一刻色を変える雲が、壮絶に美しい色!
動く風景画アニメとしては一級だと思います。
人物を抜いた画集が見たい。

魔法使いクモ
原作のクモは、キャラクタ演出を一切してもらえず
「そういえば昔こんな奴を仕置きしたなあ……」
的なチンピラ扱いだったので
(ゲドさま、EP3のオビ=ワンみたい!)
今回、ロークの異端者にしてゲドのライバル的な
存在にしてもらえたのは大出世。
お話的にも格好が付いた感じだし。

農作業
頭を使ってばかりいるからおかしくなるんだ。
体を使え!……みたいな?

主題歌
もう本当に文句なく素晴らしい。

これまで通りのジブリの、国内最高峰レベルの
「アニメーション」を期待すると
絶望する事になりますから、それだけは心したほうが良いでしょう。
(人物の)表情も、色も、動きも、カメラワークも、
普通のアニメです。


下記は文句とねたばれ

私がどうあっても許せない1点があって、
それはアレンの親殺しです。

プロデューサーの発案でねじ込まれたらしいが、
1.キレ易い若者から共感。その点での話題性。
2.宮崎親子を連想して衝撃的。
3(虐待の過去を持つ)テルーと親密になるきっかけ。
以上三点のメリットがあるとお考えだったのでしょうけれど、
いくらコマーシャル上のメリットがあっても
物語上のデメリットが大きすぎて、
話全体に亀裂を入れかねないくらいだった。
創作をする人の考え付くアイディアではない。

イライラしたというだけで特に理由も無く親を刺し殺すアレン。
(世界の歪みや分裂の所為というなら
街中で同様の事件を2,3件描くべきだ)
その後、誰に咎められる訳でもなく、
すごい罪悪感に苦しむ訳でもなく、
彼が気に病むのは見事に自分の事ばかりですよ
罰を受けるわけでもなく、普通に旅をし、活躍する。
こんな映画を倫理観の固まらない年齢のうちに見たら
イライラした時に人を刺すのは
選択肢としてアリだと刷り込まれてしまう。
多くの子供が目にする作品には、
ある種 道徳的な制約を受ける義務があると思う。
それは争い、暴力、悪事を排除せよということではなく、
タブーを犯せばペナルティが必ず課せられるという
鉄の法則だ。それがあればよかったのに。

解脱後のアレンの、
自分が死刑や終身幽閉になるとは夢にも思ってない風の、
「反省書き取りが終わったら、また来るよー」
みたいな態度が気持ち悪かった。
(「国に帰れば死が待っている」というキャッチコピーがあったそうですが、
本篇からは全然感じ取れなかったそこのところは……)

どんなに格好いいアクションをしても偉そうな説教をしても
「でもこの人、基地外だしな……」と思い出して妙な気分になった。
親殺しではなく、窃盗とか傷害ではいかんかったんだろうか。
ハジアに手を出して国外追放とか。

原作3巻が比較的起伏の少ないサーチ&デストロイな話なので
何か継ぎ足さなければならない!と考えるのはまあ分かるのですが
「親殺しで分裂してて剣の名手!」とかって明らかに付けすぎっていうか、
エスパーで宇宙人で忍者でハンサムみたいな、そういう。
あと、絵柄の話であるが感情が激した時のアレンの顔は怖かった。
楳図かずお先生の漫画を思い出した。


折角なので、オタクにありがちな
私ならこうするゲド戦記(寝言&原作3巻ねたばれ)
をヤッチマイたいと思います。

とりあえず、私なら
ゲド様は少年に変身することにするYO。
(原作のゲド様は大変なセレブなので、
下々の街へ行くときは変化の術を使われます)
(物語のテーマには若干反しますが、ポスターとかCM映え優先)
ほらもうそれだけでジブリ美少年2人旅という
恐るべき萌え映画の出来上がりだ。
もちろん2人で奴隷船に掴まっちゃうんだぜ?
戴冠式には汚い子供の格好で来ちゃうぜ?
(魔法の力は失ってないぜ?)
門番に追い返されそうになるけど
アレン王が膝をついて礼をするので一同目を丸くしちゃうんだぜ?

どうしても、びしょうじょが必要だ!というのなら
美少女に変身するゲド様でもよろしい。
「この御方には指一本触れさせないぞ!」
とかいう超おいしい倒錯映画の出来上がりだ。

私が原作3巻で一番好きなシーンは
ゲドと始めて出会った時のアレンの

「大賢人はそう言うと、アレンの背中を軽く突いた。
誰にも見せたことのない親しさだった。
若い王子にしても、
他の人間から同じようなことをされたら不快に思ったろうが、
大賢人が触れてくれたと思うと、その光栄に胸が高鳴るのを覚えた。
アレンは早くも大賢人に対し、恋にも似た思いを抱いてしまっていた」

っていうとこー!!ココー!
ココが好きなのー!!(はいはい)
なのでこのシーンを中心に据えて脚本を書くと思います。

なぜ吾朗監督が3巻の話をベースに、4巻の登場人物を足して
1巻の話をエッセンスに、更に「シュナの旅」を混ぜてみるという
黒魔術みたいな事をしたのか理解不能です。
3巻の王子は、父王も母親も大変尊敬していて、
そして何より賢者ゲドに一目惚れして
一途に彼の後をついてゆく非常に良い子なのです。
そのまま映画化すればいいのに。




2006.08.19 イベントチラシに掲載
2006.08.27 サイトに掲載

2011.08.08 再掲載





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