「ミュンヘン」



政治話?が混ざりますので苦手な方御注意です。

この映画が製作されるまで、
私はミュンヘンオリンピック事件の事を知らなかったのですが
ネットでちょっと概要を見ただけで、十分たまげました。
映画は淡々とドライに、それでいてセンス良く撮られていましたが、
現実のキョーレツさには到底敵いません。
現実って、なんて物凄くて無様で奇怪で突拍子もないんでしょう。

ミュンヘンオリンピック開催中に、
敵対するA国の選手村へ潜入したB国の武装集団が、
選手とコーチを人質にとって、収監された同胞234名の解放を要求。
しかしテロの処理にあたったドイツの狙撃部隊の
あり得ないほどの失敗の連続により(くわしくはwikiで!)
武装集団8名のうち5名と人質全員が死亡する。
(余談ですが、これを反省したドイツは特殊部隊GSG-9を創設し、
日本はその規格をSAT結成の際のモデルにしました。
GSG9を題材とした連続テレビドラマが現在衛星で放映してますね)

怒ったA国は報復として爆撃を開始、民間人数百名が
巻き添えで犠牲になりました。
そしてA国諜報機関に、事件に関係したB国の者全員の暗殺を命じます。
(当事のA国元首は女性です。性別も年齢も関係なく
人間が政治をやる限り戦争はなくならんのかもしれんです)
そしてA国諜報機関は、途中人違いで関係ない人を殺しつつも
なんと本当に全員をぶち殺します。
オリンピック事件で生き残って逮捕された犯人3名は、
ルフトハンザハイジャック事件の犯人の要求により釈放されたのですが、
それも追いかけていって殺しました。猛者ドが恐れられるわけですよ。

映画はその暗殺「神の怒り作戦」を実行犯の視点で描いたものです。
チームはリーダーの作った料理を食べながら計画を練り、
暗殺に使ったお金の領収証を確保し、
経費がかかりすぎだと小言を言われつつ仕事をこなします。
非常に淡々と話は進みますが時折両陣営の主張が挿入されます。

我が民族の人間を殺した罪は血で贖ってもらう。
やっと世界は我々の声に耳を傾け始めた。

どちらの陣営も否定はされていませんし、
暴力を肯定も否定もされていません。
いや、この映画は私から見れば公平な作品なんですが、
大丈夫かな監督…テロで殺されるとかしゃれにならないよと思っていたら、
なんと監督は自分と同民族であるA国に強烈に非難されたそうですよ。
どっち側からしても公平に感じられないのが、公平って物かもしれませんね。

片や世界最高の商才を与えられ、ジャイアン国の中枢をがっちり操作する民
片や聖典に「殉教したら、あの世でゲットできる特典」が記されている民
経済と宗教を手段にしてA国とB国は戦っているように私は思います。
どちらも相当えげつない事を互いに行っているので
どちらが悪いとかもはや曖昧です。
人はどうして争うのとか戦争はいけないとか、
そんな甘っちょろいことは、この2国対しては申せませんよ。
家族、友人、恋人が、またその人達の家族、友人が殺されたら
そりゃあ平静でいるのは難しいことでしょう。

ただ、国際的に見て非常識な手段で目的を果たそうとする統治者は
それが自分が死んだ何十年何百年後に相手国の外交カードとなるということ。
関係者が老衰で死ぬ頃には暴露本がバンバンでること。
それが何十年後かにハリウッドで映画化されたりリメイクされたり
ミュージカルにされたりすることを念頭に置いてから実行してほしい。
「百年単位で後先考えろよ……」と言いたいです。




2007.08.21 サイトに掲載

2011.07.04 再掲載



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