「ベオウルフ」



ゼメキスは昔から好きな映画監督の1人ですが、
ここ最近の彼の印象は、鋼やポタによく出てくる
「闇の錬金術や闇の魔法に手を染めて魔道に落ちた人」です。
しかも悪くない意味で。
その闇の魔法の名は「フルCG」です。

この映画は、すごいの。
もうCGには見えないの。
最初のシーンなんか、
知らない人は100%実写だと思うよ。
前回の『ポーラ・エクスプレス』の時は、
まだ肘や膝のお洋服の皺が、もろにCGで
時々実写に見えるかなーって程度でしたが
今回は違う。3年間でこんなに!CGすげえ。
そしてワーナーとか、
ワーナーの信頼する突き抜けたオタク監督達の更にすごい所は
映像すごいでしょ!って段階で立ち止まらずに
お話もハイクオリティを目指すところ。

ベオウルフは英文学最古の作品の1つだそうです。
「最近どの映画も倫理観がアメリカ規格で統一されちゃって
別にいいけど時々飽き飽きするよね?
キリスト教がまだうさんくさい新興宗教だった時代は
人間もっと野蛮に愉快にやってたんだよ?
そういうのも面白そうじゃね?」
っていう味付けなんだと思います。この映画。
キリスト教に対する少々きわどい批評も。
下品なジョークも、人間丸かじりも、そういう演出ですね。
オリジナルの神話にプラスされた部分が非常に良かった。
覇王と、繰り返される呪い。
私は「俺を斬ってみろ!」のシーンで終わっていたら
良かったかなと思ったんですが、
まああの「男ってばかなんだぜー!」という終わりも
大らかでよろしいかなと。
アンジェリーナは決して悪い存在ではないんですねあれ。

秀逸だったのはアクションシーンで、
「魔物相手に、剣や防具が役に立つものか」
と、ベオウルフ突然全裸になっちゃうんです。
そこからがもう大変。コップやシャンデリアやテーブルや、
部下の頭や部下の武器や色々なものが
絶妙にベオウルフの股間を隠して
ぐるぐるカメラが動きます。
もう駄目だ!って時は煙が上がったりして。
日本のギャグ漫画で同じネタがあった気がしますが
(ギャグまんが日和でしたっけ…ジャガーさん?)
最後のほう我慢できずに笑ってしまいました。

「人間の名演技がCGなんかに再現できるわけがない」
という考えの人は、私達の年代には少ないだろうと思います。
映画「ベオウルフ」を見て、
CG俳優の可能性にわくわくさせられました。

CG俳優を作るのは、
名 演 技 と は 何 か?
というのを分解する作業ですね。
わー、楽しそう。
瞼の動き、眼球の動き、口元、眉、指の動き、間の取り方。
本当に、名演技ってつまるところ一体何でしょうね。
いまは人間のモーションを取り込んでいますが、
古今の名優さんのデータは、きっと山のようにあるでしょうから、
どんどんデータ蓄積していけばいいのです。
(CGで名女優を作る
「シモーヌ」という映画がありましたが面白かった)
人間の名優さんは100年でいなくなってしまいますが、
CG俳優は無限の期間存在し、
24時間365日学習し働くことができる。
その点で人間に勝るとも劣らぬ存在だと私は思います。

そして俳優の動きのデータ、雪山や森などの背景、
竜やクリーチャーなどの生物、水や炎のエフェクトなど、
撮れば撮るほどデータが増え、財産となります。
素晴らしいですね。




2007.12.30 サイトに掲載

2011.07.04 再掲載



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